(4)メディカルサポート

1) バレーボールで起きるけがと障害

スパイクでは下半身を使ってジャンプした後、空中で上半身をスイングさせ手でボールを打ちます。

ブロックでは空中でボールを押さえます。さらに床上の選手がディグするというバレーボールは上肢、下肢、体幹すべてを使う全身運動です。このために外傷や障害は全身に起きます。特にプレーでよく使われる肩、指、膝、足首のケガが多いのです。

しかし、直接相手とぶつかり合うコンタクトスポーツとは異なり、強い力で起きる外傷は少なく、バレーボール起きる外傷や障害は足関節捻挫や膝の半月板損傷といったジャンプに関わる部分の外傷か、良く使われる肩や腰、膝といった部分の慢性的な障害が多いのです。

 

@ 上肢

○指

 代表的な指の外傷は「突き指」といわれるブロックやレシーブの際にボールが指にぶつかり起きる指の打撲(挫傷)や捻挫です。注意しなければならないのは単なる捻挫や打撲と思っていた「突き指」に骨折、脱臼、靱帯断裂が含まれることがあることです。これらは単純な「突き指」と違って指の変形や屈伸障害といった後遺症を残すことになるので、早期に専門医を受診して診断を受ける必要があります。

一般の指の捻挫はテーピングなどを用いて、比較的早期の競技復帰が可能です。指のテーピングは傷めた靱帯を補強する形で巻くことが基本であるが、時には隣の指を副木代わりにするために二本の指を一緒に巻く方法があります。

 ブロック動作などで相手のスパイクを至近距離でダイレクトに指で受けると、裂創(指と指の間がさけるケガ)となったり、指の関節の開放性脱臼となったりすることがあります。この場合は早急に縫合術および脱臼整復術が必要となります。

 この他にも爪の損傷が見られます。爪は良く切り揃え、手入れをするべきであるが、女子選手の中には美容のために爪を伸ばしている選手もあり、第三者もチェックして注意する必要があります。指の先端が「あかぎれ」を起こして、ひび割れるような場合もあり、これは特に冬季に乾燥し、指先端の血行が低下しているときに起きやすいので、ウォーミングアップの時に手袋を着用して指を冷やさないようにすることです。

○手関節

 手関節の障害はスパイク動作、サーブ動作、セット動作よりも、レシーブやブロックで起きる場合が多いです。レシーブやブロックで強打を手のひらや拳で受けた際に背屈や内外転強制を受けたり、レシーブで床に手を突いたときに受傷します。

指と同様に捻挫や打撲の場合が多いが、舟状骨骨折や三角線維軟骨複合体損傷(TFCC損傷)などを発症する場合があります。舟状骨骨折は母指の付け根の手根骨と呼ばれる小さな骨の一つの骨折です。また、三角線維軟骨複合体損傷とは小指側の前腕骨の尺骨の先端の軟骨損傷であり、特に手関節を背屈する時や尺屈(小指側に開く)動作で痛みが出現します。これらの障害ではギプス固定や手術治療を要する場合があるので、やはり専門医の診断が必要となります。

○肘関節

 肘関節の障害は野球やテニスに比べると比較的少ない。急性の外傷としては手首と同様にレシーブの時に強打を受けて外反や過伸展を強制されたり、床に手や肘を着いて受傷します。

競技歴の長い選手では野球選手同様に肘関節を構成する上腕骨、尺骨に骨棘(こつきょく=骨の表面に出来る余分な骨。関節への繰り返しのストレスを原因とする)を形成したり、関節内の遊離体(関節ねずみ)の出現が見られる。骨棘の形成は肘関節の可動域障害を起こします。肘頭に起きる骨棘は肘の伸展障害を起こすので、アンダーハンドレシーブで肘の伸展姿勢が取れなくなり、プレーに支障をきたします。

これらの障害はボールを受けたときの強い痛みの原因となるだけでなく、神経障害を起こして、動作時の強いしびれを引き起こすことがり、特に尺骨神経の障害(肘部管症候群)は小指や薬指に放散する強いしびれと同時に握力の低下を来します。尺骨神経の障害は骨棘によるだけでなく、尺骨神経脱臼といって先天的に尺骨が脱臼する選手でも問題となります。

○肩関節

 肩の障害は膝関節や腰の障害と並んで、非常に多い。スパイクやサーブのスイングの基本は投球動作と共通する部分が多いです。バレーボール選手では特に女子選手のように小さいころにキャッチボールの経験がなく、投球動作の基本が出来ていない内にスパイク練習を始めることが多い。正しいスパイクフォームを身につけるためにはキャッチボール(バレーボールよりも小さなボールが投げやすい)などの投球の基本的な練習を取り入れることが望まれます。

  肩の障害は野球選手などに起きる一般の投球障害に準じており、腱板障害(インピンジメント症候群、腱板炎、腱板断裂等)、関節唇損傷などを発症することが多いです。肩の障害の特徴は一つの障害が連鎖反応的に他の障害を次々と引き起こしてくることにあります。これらの障害は専門機関で診断のもと、治療を行う必要があるが、肩の障害ではリハビリテーションやトレーニングがより重要となってきます。

 重篤な障害として「棘下筋萎縮」という疾患があります。本疾患は欧米で「volleyball shoulder」という名称を受けているようにバレーボール選手に多いです。利き手の肩甲骨の中央から下方にかけての棘下筋と呼ばれる筋肉に筋萎縮(筋肉が痩せて、薄くなる)が起きます。萎縮の程度がひどくなると肩の挙上が困難となり、スイング時の激痛に見舞われます。程度の差はあるがトップクラスの男子選手の約50%が罹患しているという報告もあります。原因としては「フォーム」「使いすぎ」「素因」が上げられます。いずれにしても肩関節のトレーニングやケアはバレーボール選手として真剣に取り組むべき課題です。

 

A 体幹

○腰部

 腰は体の要(かなめ)の部分であり、全てのプレーには腰をはじめとした体幹部が使われます。さらに、腰は構えの姿勢を維持するために必要であるが、レシーブに代表されるバレーボールの多くのプレーは前かがみをとり、腰に負担がくるような無理な姿勢を維持しなければならないことが多いです。

 ジュニア時代の腰の障害で最も考慮しなければならないのは「腰椎分離症」です。これは腰椎の椎弓と呼ばれる部分に起きる疲労骨折であり、腰椎の使いすぎを原因とします。

 腰椎分離症の発症年齢が小学校高学年から中学校低学年にあり、同時期でのスポーツにおいての腰椎を使いすぎると発症します。

腰椎分離症は発症初期のレントゲン上の変化が少ない早期においてはコルセットを装用した安静のみで治癒します。治療の機会を逃すと症状が長期化したり、「腰椎分離すべり症」となり、神経症状を発症します。また、持病となり、中高年以降の腰痛の原因となる場合があるので注意を要します。

「腰椎分離症」に限らず、疲労骨折は単なる使いすぎだけではなく、同じ使い方を数多く繰り返す場合に発生します。腰は三次元的に「前屈−後屈」「左側屈−左側屈」「右回旋−左回旋」という運動の方向があり、「スパイクは腰の『反り』で打て」といわれるが、反り(=後屈)とその戻し(=前屈)という一次元のみの動きでは腰椎の一部に大きな負担が来ます。なるべく、他の二つの方向の動きを取り入れて一つの動きに偏らないようにするべきです。

成人で起きる腰椎椎間板ヘルニアなどを起こす選手もいます(若年性ヘルニア)。椎間板ヘルニアとは腰椎と腰椎の間にある椎間板と呼ばれる軟骨が神経の通り道である脊柱管に向かって脱出する疾患です。神経を直接、軟骨が圧迫する病気であるために激痛を伴い、また麻痺を起こせば、下肢筋力の低下や歩行困難を引き起こします。成人のヘルニアと同様に手術治療を要する必要があります。

バレーボールの腰痛の中で最も多いのは疲労性腰痛です。無理な姿勢の連続や反復する動作により、腰痛が起きます。高身長の選手の中には身長の伸びに背筋の増加が追いついていない場合が多く、相対的に筋力が弱く、疲労を起こしやすい状況です。

また、腰痛は精神的な原因で起きる時があり、チーム内の人間関係が上手くいっていない状況や各種のストレス、試合前の緊張で腰痛を訴える選手がいます。ストレスの解消とリラクゼーションを計るべきでしょう。マッサージはそのような時のリラクゼーション効果も期待できるのです。


B 下肢

○股関節

「股関節が硬い」「股関節の動きが悪い」といわれる選手がいます。股関節は腰椎と密接な関係にあり、「腰が入ったプレー」とは股関節と体幹がしっかりと協調して動くことをいいます。

股関節の動きの悪い原因として、先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全という先天疾患の影響を受ける場合があるが、成長期においては下肢の骨の伸びと筋肉の成長との不均衡により、相対的に筋肉が短くなり、硬さとなって出現する場合があります(タイト・ハムストリング)。このような選手では腰が入らない、足先だけでプレーをすることになり、膝や足関節にもアンバランスを発生します。

股関節はリハビリテーションで求心位と呼ばれる大腿骨の骨頭が骨盤の臼蓋の中心に正しく向くような位置を獲得することが大事です。これは先天的な股関節疾患を持つ選手についてもまず行わなければならないトレーニングであり、軽度の股関節疾患ではこれだけで症状が改善され、プレーが可能になります。

相撲で行われている四股を踏む動作は求心位を作るトレーニングの一つです。相撲では腰が入っていない力士は必ず、相手力士に押し負けるからです。また「股割り」も股関節に対しての求心位を作るストレッチです。昔、角界で行われたような「内転筋」を強制的に断裂させるような極端な物ではないにしろ、取り入れるべきトレーニングです。

骨盤は股関節を形成するだけでなく、股関節(下肢)を動かすための種々の筋肉が付着します。特に「上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)」と呼ばれる縫工筋(ほうこうきん)の付着部、「下前腸骨棘(かぜんちょうこつきょく)」と呼ばれる大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の付着部があります。骨端線が閉鎖する前のジュニア期の選手で、ジャンプやダッシュをしたときにこの部分が腱に引っ張られて骨端線の離開を起こしたり、骨折をすることがあります。また、体表からよく触れる「上前腸骨棘」はレシーブなどで床に打ちつけると骨折を起こす場合があります。

○膝関節

 膝はジャンプ動作や着地動作と直接に関連するために非常にケガが多いです。半月板損傷は膝の中にある板状の軟骨が損傷するが、多くは大腿骨(ふとももの骨)が脛骨(すねの骨)の上にある半月板をすりつぶすような動きで損傷します。これはバランスを崩したときのジャンプの着地やレシーブで深く膝を曲げた後の回旋を伴う屈伸動作などで起きます。

膝の前後の動きを制動する前十字靱帯損傷も起きやすいけがの一つです。これはジャンプの着地でバランスを崩して起きる場合が多いです。現在はMRI検査が一般化しており、早期に診断がつく場合が多いが、見逃されていたり、しばらく放置されている例もあります。受傷早期の関節血腫を来す場合は前十字靱帯損傷の可能性が高いです。

 最もポピュラーな膝の痛みは別名ジャンパー膝と呼ばれる膝蓋靱帯炎です。膝蓋靱帯炎はジャンプおよび着地の衝撃が膝蓋靱帯の付着部にかかることで起きるけがで、膝蓋靱帯炎は脛骨の近位の膝蓋靱帯付着部または膝蓋骨の下端に痛みを生じます。炎症の程度は例として、

ア 常時、痛みがある。

イ 練習後の歩行時に痛みがあり、翌日も痛みがあるが徐々に取れる。

ウ 練習後の歩行時に痛みがあるが、翌日には取れている。

エ 練習時に痛みがあり、練習後もしばらく痛みが残っている。

オ 練習時のみ痛みがあり、練習後は痛みが無い。

といったような段階をつけると、練習量を調節する目安となります。膝蓋靱帯炎の治療は練習後の十分な(30分以上)アイシングや大腿四頭筋のストレッチングを主とします。また、膝蓋靱帯炎用のサポーター装具も功を奏するときがあります。

  膝を正面から見たときの配列には内反(いわゆるO)、外反(いわゆるX)があるが、この内、外反膝の選手に膝蓋骨亜脱臼といい、膝蓋骨(膝のお皿の骨)が外側にズレる動きをする選手が多いです。膝蓋骨亜脱臼はサポーターで膝蓋骨の制動をすることで軽快します。女子選手の中にはレシーブ姿勢で腰を落とすときに膝を内側に入れる癖の選手がいるが、もともと外反膝の傾向にある選手が膝を内側に入れると、膝蓋骨の外側のズレを助長します。体の使い方でも予防できる疾患です。

○下腿

 足関節と膝関節の間にある下腿にも様々な衝撃を受けます。シンスプリントや下腿の疲労骨折といった慢性障害が比較的多いです。シンスプリントも下腿疲労骨折も下腿(脛骨)の内側に痛みが生じる疾患です。シンスプリントが慢性障害で基本的には安静を中心とした保存的に治療される疾患であるが、疲労骨折は骨折である以上、ギプス治療や時には手術治療を要する疾患です。両者の鑑別をしっかりとつけることが必要です。

これらの障害は床から受ける衝撃が原因となるので、衝撃を減らすようにしなければ予防が出来ません。

一つにはシューズやインナーソールの工夫や硬い床面での長時間のジャンプ練習をさける必要性が上げられます。また、着地の時にできるだけ両足を使い、膝の屈曲を使いながらソフトに着地するといった動作の工夫も重要です。

○足関節

 足関節の捻挫はバレーボールでのケガの代表的なものです。バレーボール外傷の中では最も頻度が高く、また、統計的にはアタックラインよりも前のフロントゾーンでのケガが多い。これはジャンプ機会が多いことと、着地の際にネット越しの相手や味方同士で足が接触することが多いためです。特に着地のときに相手の足に乗ってのケガは身構えることなく、おりることで起きます。捻挫で多いのは外側捻挫と呼ばれる足関節外側の靱帯を損傷するタイプで、通常の捻挫は初期の適切な処置を行えば、後遺症などを残さずに治癒するが、初期治療に問題があったり、靱帯の完全断裂など損傷の程度が大きい場合は足関節の不安定性が残る場合があり、捻挫を頻繁に繰り返す場合があります。そのような選手ではテーピングや装具の着用が望ましく、近年では足関節捻挫予防の装具もかなりの改善がされているが、装具は捻挫を100%予防するものではないので過信は禁物であることと、人間の本来の足関節の動きを制限するものであるので、必要な時だけに装用するようにします。

 ○足

 ジャンプの踏み切りや着地は最終的には面積の小さな両足で行われます。最も単純な障害としてはジャンプの踏み切りやレシーブのステップの癖により起きるあしの裏のマメやウオノメといった障害です。

 足趾が疲労骨折を起こすときがあります。これも足の裏の偏った使い方によるものです。母指周囲の痛みが生じる種子骨障害も同様の原因といえます。

 足が偏った使い方になる理由は足だけにあるのではなく、その上にある足関節、膝関節、股関節に問題があり、その影響を足が受けている場合が多いです。下肢全体をみたリハビリテーションを必要とします。

下肢全体のバランスに起因する場合はスポーツ用に選手の足に合わせて作られた足底板などを靴の中に入れて、バランスを整える治療が有効です。また、シューズの選択も、メーカーやデザインや価格で選ぶのではなく、実際に試着して、自分の足にフィットするシューズを選ぶことが必要です。

 

C まとめ

 バレーボールに多い慢性障害の第一の原因は‘使いすぎ’です。‘使いすぎ’は練習時間の長さもさることながら、同じタイプの練習(たとえばスパイク、ブロックといったジャンプ系の練習)を集中して行うと短時間でも慢性障害は発生します。また、フロアやシューズの衝撃吸収性が悪く下肢への衝撃が大きい場合は短期間で慢性障害に陥る。慢性障害は、

    「衝撃の大きさ」×「練習時間」

の積算の累積と考えればわかりやすいでしょう。

慢性障害の原因のもう一つの点は‘体の使い方’です。バレーボールは小学生などの比較的早期に始める選手が多いが、早い時期より‘バレーボール漬け’になる選手も多く投球動作などの基本動作が、不十分なままで、応用的なプレーをしているケースがあります。このような場合も慢性障害に陥りやすいのです。良い体の使い方の習得は常に心がけるべきです。さらに矯正すべき‘体の使い方’の癖を持っている場合も慢性障害につながります。

体幹を上手に使えずに自分の持っている力を十分に発揮できない選手もいます。このような選手は肩から先の手先に頼るフォームになりがちで、小さい部分で大きな力を発揮しようとするために相対的に過負荷となるために故障を起こしやすくなります。

バレーボールで多いスポーツ障害は急性外傷も慢性障害もともに、プレーにおいて‘よく使う部分’に発生しています。‘よく使う部分’が強くなればプレーのパフォーマンスの向上も大いに期待できます。障害の予防や治療の目標点は強化の目標点と一致するところです。

2) けがの治療の実際

 スポーツにけがは付きものですがバレーボールで起こりやすいけがといえば、手指の突き指、足首の捻挫、腰痛、肩痛、膝の靭帯損傷などがあります。ここではその中でも特に手術が必要となり復帰までにリハビリ等で長期間を要する膝の前十字靱帯損傷について、実際の治療の概略を含めて述べたいと思います。

 受傷機転 膝には前後・左右を制動する四つの大きな靱帯があります。内側、外側の側副靭帯、前後の十字靭帯がそれです。そのうち前十字靱帯の損傷(断裂)はスポーツ特にジャンプ競技では比較的多く、バレーボールではアタックやブロックの着地の瞬間に片足だけに全体重がかかった状態で膝をひねったり、ジャンプの際体が流れて不自然な体勢で片足着地をしてガクッとなったりして起こります。

 症状 膝全体の痛みで歩行困難になることが普通ですが何とか歩けることもあります。バチッと靱帯が切れる音を感じる場合もあります。この靱帯は関節の中にあり皮膚の上からは触れることはできませんのでどこが痛いのかわからないこともよくあります。歩けるから大丈夫ということはありません。翌日のほうが腫れてくるので、病院を受診すると膝から血を抜かれたりすることも多くあります(膝関節血腫)。しかし当初歩行ができなくても安静にしていれば数日で痛みは軽くなり歩行は可能となり膝の動きも良くなってきますが、一方で階段を下りたりする際に膝がぬける、ずれる、踏ん張れない等今までにない膝の異常な感じ(膝不安定感)を自覚するようになってきます。この靱帯の機能不全により前方への制動ができなくなるために起こります。病院でレントゲンを撮って骨折はないといわれても安心はできません。また内側の側副靭帯損傷を合併していても同様に前十字靱帯の損傷(断裂)が見過ごされている可能性があります。このけがではMRIを撮ることで診断がはっきりとし、同時に合併する他の靭帯損傷や半月板損傷などの有無がチェックできます。膝蓋骨(お皿)の脱臼や亜脱臼でも同様の症状が出るので専門のスポーツ医の診察を受けることとともにMRIが必要となってきます。膝から血を抜かれて骨折がないといわれた場合は必ずMRIを撮ってもらいましょう。 

 治療方針および方法 この前十字靱帯が切れると膝がぬける(giving way)踏ん張れない等のために基本的にバレーボールはできません。運動をするためには非常に重要な靱帯です。この靱帯が切れたままサポーターやテーピングなどで無理してバレーボールをすると膝の関節軟骨や半月板に徐々にダメージが加わり痛みで正座ができなくなったり、膝に水が溜まったりしてきて重症になると若くして変形性膝関節症という状態になっていきます。日常生活にも支障をきたしスポーツどころではなくなります。

従ってスポーツを続けるには手術が必要になりますがこの靱帯は単に縫い合わせても元の靱帯の強度は得られず再断裂を起こしてしまうため、新たに靱帯を作って骨の中に埋め込む手術(靱帯形成術)が行われます。一般的には膝蓋靭帯(お皿の下の腱)を使ったり、大腿二頭筋(大腿部の内側裏のハムストリングの腱)を使って靱帯を作り膝の骨の中に金属で埋め込む方法が行われます。これらの手術法では手術して埋め込んだ靱帯が骨の中にしっかり自分のものとして生着するには6ヶ月はかかります。

手術時期および経過は、けがの直後は腫れて膝の動きも悪くなるので手術は膝の動きが良くなってから行います。けがをしてから2ヶ月以降が普通で23週間の入院期間が必要です。半月板損傷を合併している場合でも手術は同時に行ないます。半月板は切れた部分を切除することが大半ですが、切れた場所によっては縫合することもあります。現在の手術はその大半を内視鏡(膝関節鏡)で行うため傷も小さく出血も少なく、術後早期よりリハビリが可能となり以前よりかなり入院期間が短くてすむようになりました。術直後は膝は固定され移動は車椅子という生活となり歩行はできませんが、2日目からは機械を使ったベッド上でのリハビリ(CPM)が始まります。そして術後2週間目くらいから膝に硬性の装具をつけて歩けるようになり、リハビリで膝の動きが90度以上になったら退院になります。退院後も外来でのリハビリを続け手術後3ヶ月間この装具を日常生活でつけていなくてはなりません。骨に埋め込んだ靱帯が伸びてしまわないためです。靱帯がきちんと骨に生着するには6ヶ月かかりますので本格的なトレーニングは術後6ヵ月後からになります。ジョグからダッシュ、ジャンプへと徐々にレベルアップしていきますが、バレーボールへの完全復帰には膝周囲の筋力が健側の80%以上に戻っていなくてはなりませんのでリハビリ、トレーニングをしっかり行っていても術後8ヶ月程度かかるのが普通です。

このように膝の前十字靱帯損傷を起こすとけがから復帰までには手術を含め1年近くの時間がかかります。きちんと診断されていないとさらに遠回りして無駄な時間を使うことになりますし、関節軟骨や半月板などに更なる損傷を引き起こすことになります。けがをしないことが一番ですが万が一このようなけがをしたら、早期に正しい診断や適切な処置を受けるためにも専門のスポーツドクターの診察を受けることが大切です。

 

3) バレーボールにおける暑さ対策

今やバレーボールも一年中練習や競技会が行われていますが、一般的にトップシーズンは、暑い7〜9月です。また、トレーニングも夏場主体に激しさを増すといって過言ではありません。では、その環境はどうでしょうか。トップレベルが使う立派な体育館では空調設備も整っていて快適な環境でプレーができますが、学校などの一般的な体育館では窓も開けられず、むんむんとした高温多湿の状況の下でがんばっているのが現状です。本来、発育期の子供たちや一般人が、高温多湿の環境下でスポーツをするのは必ずしも好ましいとはいえず、必要以上に生体に負担がかかり、体力の消耗が激しく、脳の働きも鈍ってきます。それは、競技力向上を妨げるばかりでなく、けがも増え、熱中症にかかる危険性も高くなります。また、発育期には体力の個人差が大きく、同じようにプレーしていても負担の度合いが異なります。ここでは特に熱中症を予防する「暑さ対策」の観点から、夏季においてバレーボールを実施するにあたっての注意点をポイント解説します。

@ 夏の体育館は要注意

冷房が完備していない限り、夏の体育館の温度は、風通しの悪い、ない体育館では、直射光こそないものの、対流も生じず、うつ熱状態になるのでむしろ屋外より暑熱環境的には高温の悪い状況となり得ます。実際には、ちまたの体育館の猛暑日の気温は、乾球温37℃以上、WBGT33℃以上の厳しい暑さになることが予想されます(WBGT暑熱環境温度・後述)屋内競技であるバレ−ボ−ルでも熱中症が多分に発生し得るのでその予防対策が必要です。

A 暑さがもたらすからだへの影響

ア 暑さと体温調節  発汗の仕組み

運動時の熱の出納は、外来熱量+産熱量−放熱量=蓄熱量で計算されます。熱産生は主に運動により筋肉で生じ、熱放散は皮膚で皮膚血流を増して行なわれています。運動をすると、体の熱産生が熱放散を上回り、蓄熱量が増加してきますが、通常では熱放散のメカニズムが働いて体温はあまりひどくは上昇しません。熱放散のメカニズムは、皮膚の血流が増えて汗腺で汗を作ることで生じます。皮膚温30℃で発汗が生じ、汗自体の熱とその気化熱として熱放散します。熱放散は、気温、湿度、風や輻射熱の影響を受けますが、気温や湿度、輻射熱が高い環境では、運動による熱産生に見合った熱放散ができずに体温は過度に上昇することになります。夏の暑い日の体育館での運動では、この状態を考慮しなくてはなりません。

イ 暑さに負けると熱中症 熱中症を知ろう! 熱中症(日射病)

運動をすると熱が発生します。ヒトは過剰な熱を発汗によって調節していますが、真夏のグラウンドや体育館といった暑熱環境下のスポーツ現場では発汗量が著しく増加します。大量の発汗はパフォーマンスの低下をもたらし、熱中症を引き起こす原因になります。

運動時には、まず運動をするために筋肉に血液を送り込まなければなりません。他方では、発汗という熱放散のために皮膚の血流も十分に確保しなくてはなりません。暑熱環境下で運動すると、皮膚への血流量を大幅に増やさざるを得ず、相対的に循環血液量が減少してしまいます。この結果、生理学的に連鎖反応が起こって、あげくは生命に危険な状態にまでなってしまいます。これが「熱中症」といわれる病態なのです。

病型

ア)熱失神 = 発汗を促すために皮膚や筋肉の血管が拡張します。これが血管床の増加を招き、発汗による脱水とあいまって循環血液量の相対的減少を引き起こし、脳血流量が下がって失神することがあります。

イ)熱疲労 = 体温の上昇を押さえるために発汗しますが、発汗量に水分補給が追いつかないと脱水になり、脱力感や倦怠感、めまいや吐き気を訴えるようになります。

ウ)熱痙攣 = 多量の発汗に対して水分だけを補給していくと塩分不足を招き、四肢の筋肉がけいれんしたり腹痛を生じたりします。

エ)熱射病 = 脱水が過度に進むと、減少した循環血液量に対して体の重要臓器の循環血液量を維持しようとして今まで開いていた皮膚の末梢血管を逆に収縮させて血管床を減らそうとします。すると、かえって発汗は押さえられてしまい、ますます体温は上昇してしまうという悪循環に陥り、あげくは高温性の臓器障害を引き起こしてしまいます。異常な体温上昇(40℃以上)と共に意識障害やショック(急性循環不全)となり多臓器不全で生命にかかわる状態に至ってしまいます。

B バレーボールにおける発汗

一般に、バレーボールの練習を1時間行うと500ml〜1L程度あるいはそれ以上の汗をかくといわれています。

 出た汗は、水滴のまま滴下したり、衣服にしみこんだりして蒸散という熱放散のメカニズムに寄与しないものがあります。これを無効発汗といって湿度が高いと汗の量は増えますが、放熱のための汗として十分に寄与しないことになります。体育館ではこの無効発汗が意外と多いと思われ、総発汗量を増加させなければならない状況になり、脱水に対する注意が特に必要となります。

C 水分摂取の方法 多量発汗には塩分補給も!

競技力の維持、向上には「水分」が重要な役割を担っています。「脱水」ひとつで疲労を助長し、競技力が十分に発揮できなくなってしまいます。したがってコンディショニングとして水分補給は重要な課題です。水分補給には体温調節の役割もあり、競技の特性に合わせて上手に行う必要があります。

 実際に飲むのは、水でよいのか?スポーツドリンクがよいのか?が知りたいところです。

発汗による体重の1%の減少は、体温を0.3℃上昇させ、体重の23%の水分喪失に至ると水の補給だけでは発汗量をさらに増すことになり、汗とともに塩分が出てしまい、塩分の喪失を助長します。また、塩分の補給をしないでいると、希釈性の飲水停止が生じ、むしろ水を飲みたくなくなり、かつ余分な水分を尿として排泄し、あげく体液量を保持できなくなってしまいます。したがって、夏場の運動時には、“適当な水”を用意して、運動量に合わせて積極的な飲水を試みる必要があります。

ア 熱中症の予防には、理論的に言って、

発汗による体重減少の7080%の水分補給が必要です。

飲水の目標は、発汗による体重減少が体重の2%以内に押えるように補給しましょう。

運動中は発汗量の5080%の量を補給する必要があります。

体重の23%の発汗には塩分の補給が必要となります。

長時間になるときには糖分の補給も必要です。

 イ バレーボールを実施する時の考え方は、

激しいプレ−では1時間当たり2リットルの発汗を想定しましょう。

1リットル以上の発汗に対しては水分のみならず塩分の補給も必要となります。

激しいプレ−では1時間当たり500kcalのエネルギ−を消費するので糖分の補給も必要と考えましょう。

ウ 水分摂取では、塩分補給とクーリング効果を考慮し、飲みやすく、吸収のよい濃度・温度に調整することが大切です。

 ●515℃に冷やした飲水(冷たい水)は、ク−リング(冷却・体温を下げる)効果があると同時に吸収もよくなります。

●塩分補給には0.10.2%の食塩水が基準です。

●糖分補給には48%程度の糖水を標準と考えましょう。

エ 実際の飲み方として、

●開始前に250500ml(=300ml)の飲水をしましょう。

●15分おき程度に200250ml位の量を飲みましょう。

515℃に冷やした水やスポ−ツドリンクを使いましょう。

●水分補給は後追いになってはならず、先手必勝が原則です。飲みたい量を飲みたいときに飲むという自由飲水(こまめに少量ずつ)が原則です。さらにいえば、飲みたいより「飲まなくては」の発想で、飲みたくなる前に飲むことが必要でしょう。

●水とスポーツドリンクを交互に飲む、前半には水を飲み、後半をスポーツドリンクにするなど飲む工夫をしてください。

●運動終了後の回復時にも水分を摂取することによって、上昇した体温を早く下げる効果があり、これだけでも疲労の回復が早くなります。

オ その他

エネルギーの消耗が激しいので食事は3食きちんととりましょう。

バレーボールでは、トップレベルの1時間の競技や練習で約500kcalものエネルギーを消費するといわれていますので、運動による消費エネルギーの補給を適切に行うことも大切です。日頃から、筋力維持向上のために蛋白質、脂肪、炭水化物のバランスをよく、偏らない食餌にし、競技直前や競技中間の食餌は炭水化物主体の消化のよい形状のものにするのがよいです。運動直後の炭水化物は、グリコーゲンの生成効率はよいということを知っていてください。

D 熱中症予防のためのその他のコンディショニング

夏のトレーニングで競技力を十分に発揮させるために水分対策以外の注意しなければならないコンディショニングとしていくつかを列挙してみましょう。

ア シーズン当初から徐々に暑さに慣れていく計画性が必要で、暑さ慣れには34日かかります。

イ 涼しい場所での十分なウォーミングアップとクーリングダウンをしましょう。

ウ インターバルにはできる限り風通しのよい場所へ移動して休み、汗をよく拭きましょう。

エ 放熱性素材の通気性、吸湿性、放湿性のよい被服を使用し、まめに着替えましょう。

オ だるさ、脱力感、めまい、吐き気、しびれ等を訴えたら要注意で休ませましょう。また、顔色不良、鈍い動き、ふらつき等を観察したら中止させて休ませることが必要です。

E 熱中症の救急処置

(プレーヤー・指導者・役員など携わる者すべてが知っているべき救急処置)

特に指導者や上級のプレーヤーは当然正しく対処できなくてはなりません。万一の緊急事態にはあわてずに、急いで正しい処置ができるようにしておくことが必要です。

熱中症では予防が大切です。暑い時には熱中症の徴候に気を配り、異常を感じたら早めに休むことが予防の第一歩ですが、万が一の場合に備えて熱中症に対する救急処置を知っておくことも重要です。

(熱失神・熱疲労の救急処置)

上昇した体温を下げることと水分、塩分の補給とが救急処置になります。

脱力感、倦怠感、めまい、吐き気などを訴えたり、気が遠くなった感じを抱いたり、瞬間的な失神状態をみたら涼しい場所に連れて行き、被服をゆるめて楽な姿勢で休ませて、冷たい水かスポーツドリンクを飲ませれば通常は回復します。515℃に冷やした0.2%の食塩水を用意しておくとよいでしょう。

(熱けいれんの救急処置)

脚のけいれんだけなら濃い目の食塩水(〜0.9%生理食塩水)を飲ませれば治ってきます。辛いので低めの濃度が飲ませやすいです。

(熱射病の救急処置)

もうろうとした感じがみられたら要注意です。全身的にけいれんをおこしたり、意識障害に陥ったら、急いで救急要請する必要があります。病院へ行くまでの間、頭を低く足を高めにしてねかせ、水や濡れタオルをかけて扇いだり、首や手足の付け根に氷嚢様のものをあてて体を冷やします。マッサージも有効です。

体温は40℃になると細胞の活性が激減するので急速に体を冷やす必要があります。日陰の涼しい場所で、あお向けに寝かせて衣類をゆるめ、冷水をかけ、タオル等であおぎます。

首、腋窩、鼠径部に氷嚢(ビニ−ル等何でもよい・たくさんの氷)をあて、アイシングをしながら救急車を待ちます。

(意識障害の救急処置)

意識障害が強い時には、吐きそうなら顔を横に向けて吐物の誤嚥を防ぎますが、体ごと横向き(昏睡体位)をとってもよいです。その間は気道確保に気を遣います。

救急蘇生のABC、真っ先に救急要請するとともに、AEDを取り寄せること!

ア 呼吸をしているか?脈はあるか?を確認する。

イ A:気道確保= 頭部を後屈し、下顎を挙上して舌根の落ち込みを防ぐ。

ウ B:人工呼吸= 口対口で1分間に12回(5秒に1回)、1回500mlを吹き込む。

エ C:心臓マッサ−ジ= 胸骨上を手のひらで、1分間に100回、35cm程度押す。

オ D:除細動が必要かどうかはAEDが判断してくれます。

カ 心臓マッサ−ジ30回に人工呼吸2回の割合で続ける。1人なら心臓マッサージだけでよい。

F 参考

財)日本体育協会による熱中症予防運動指針

WBGT(℃)  (WBGT:暑熱環境温度)

31 以上  特別の場合以外は、運動を中止する。

28〜30  激しい運動や持久走など。

熱負荷の大きい運動は、避ける。

25〜27  積極的に休憩し、水分補給する。

21〜24  運動の合間に、積極的に水を飲む。

21 以下  熱中症の危険は小さいが、適宜、水を飲む 

熱中症予防のために環境温度の測定を推奨したいものです。

気温、湿度、輻射熱を加味したWBGT(湿球黒球温度)を測定すると指針を利用するのに有用。通常の乾球湿球温度計(オーガスト温度計)と黒球温度計を用いて計算しました。

屋内:WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

屋外:WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

そのまま表示してくれるWBGT計も市販されています。

 

(時分)

 

(℃)

 
     

  図1 外界気温37℃の猛暑日の某体育大学体育館内環境

WBGTで31℃(気温37℃)を超えていて、輻射熱が高くなっています。

4) 貧血調査

運動能力、パフォーマンスの発揮に影響を与える大きな因子に貧血の問題があります。特にバレーボール選手では、神奈川県の国体選抜選手に対するメディカルチェックにおいてそのトップレベルの女子選手に血色素量7g/dlレベルの強度の貧血が多数見られたという実態があります。原因は、女子固有の生理現象では説明できず、男子選手にも見られることから栄養の問題なのか、練習の質・量に関係しているのか解明できないが選手育成、戦力向上において大事な問題となっています。そこで本プロジェクトでは初年度に運動能力、パフォーマンスに期待が持てる男女各10名ずつの選手を選抜して末梢血の状態を検査しました。検査に当たっては、本人及び保護者の承諾を得て実施した。検査結果は別表のとおりです。

 24名ずつの母集団と選抜10名ずつの集団とで平均身長・平均体重を比較すると、男子では175.5cm176.5cm63.0kg63.5kg、女子では166.9cm168.7cm58.2kg58.7kgで両者に体格上の有意差は見られません。末梢血の状態は、男子では赤血球数479万〜562/μl平均514/μl、血色素量12.616.7g/dl平均15.0g/dl、血清鉄27110μg/dl平均90.0μg/dlで血清鉄27μg/dl1名だけ低値を示したが病的貧血は見られませんでした。

 女子では赤血球数428万〜482/μl平均451/μl、血色素量10.414.1g/dl平均12.7g/dl、血清鉄15126μg/dl平均96.0μg/dlで血清鉄15μg/dl21μg/dl2名だけ低値を示したが女子としては血色素量10g/dl以上であり、病的貧血は見られませんでした。

 血清蛋白、電解質に異常は見られず概ねパフォーマンスに影響する体質の選手はいないと思われ、鉄欠乏が疑われた選手に対しては栄養指導とフォローを行いました。

 

5)栄養サポート

食事・栄養調査は、ZAVAS食事調査システム・スピード栄養チェック(NUREX)と3日間メニューチェック(NUREX)を用いて実施しました。初年度は、選手自身と家族の栄養(食事)に関しての考え方・取り組み思想について調査、2年目は、選手の家庭での栄養(食事)の実施状況の調査から分析とともにそれぞれ個別に指導しました。結果は別項にて解説します。

@ 栄養部門としての取り組み内容

【栄養セミナー】  平成1892日対応 JOC選抜男女48名とその父母対象。

【栄養調査】   ○スピード栄養チェック 平成19年度 JOC選抜選手  46

         ○3日間食事調査  平成19年度 高校選抜選手   46

【平成18年度4月〜19年度3月】

昨年度は栄養セミナーと題し、JOC選抜選手とその父母対象で栄養講習会を対応。

内容は基本的な食事の必要性を謳った内容で対応。

ア   バレーボール選手に必要な栄養素(5大栄養素)

イ   選手が食べる事を考えなくてはならない理由

ウ   体つくりと食事(蛋白質補給の重要性)

エ   エネルギー補給(練習・試合でのエネルギーの摂取方法)

オ   水分補給

【平成19年度4月〜20年度3月】

今年度は、実際に選手が摂取している食事内容を具体的に把握し、その内容を調査する事で、バレーボール選手におけるトレーニング指導と食事が連動され、選手のフィジカル強化につながっているかを最終的に判断するための、事前調査として以下の内容を実施しました。

ア   栄養カウンセリング(食事に対する意識調査:スピード栄養チェック〜明治製菓

梶`) 

イ   実際の選手の食事内容調査(体つくりと栄養摂取の連動:3日間食事調査〜明治

製菓梶`)を実施

ウ   選手の持参した弁当内容のチェクと写真撮影を行い、今後の育成指導につなげる

資料作成

A 栄養調査と指導

  今後成長期のバレーボール選手育成に最重要課題である内容を主にあげながら、

 スピード栄養調査並びに3日間食事調査の結果を踏まえ報告致します。

  【その1】

バレーボール選手として、技術面の向上や体力の向上を目標に日々精進している選手は多い反面、肉体的・精神的に不安を抱えている選手の割合が更に多くみられます。

(練習に関する肉体・精神的な考えへの問い 1〜11の回答)

これは選手にあってはならない問題点が、何故発生し感じてしまうかを栄養学的観点から選手へ再度説明する必要性があります。

(昨年度の栄養セミナーだけでなく、繰り返し必要性を感じさせるセミナーと個人的アドバイス・カウンセリングが必要か)

特に多い選手の症状例

足首・ひざ・腰などの関節: 蛋白質+ビタミンC= コラーゲンを生成

              関節強化には、緑黄色野菜・柑橘系果物

              柑橘系100%ジュースが有効。

精神的不安定(イライラ・キレやすい) 

精神安定にはカルシウムが有効。

              乳製品を積極的に補給することで、精神面の向上に加え

              体つくりや骨格強化にもつながる。

集中力の欠如        グリコーゲン不足

              バレー選手の運動量と食事のカロリー摂取内容の把握。 

              炭水化物(特にごはん・麺類・パン)をどの程度、摂取

              しているかの把握が重要。

  炭水化物の摂取量不足から来る、低体重化。見た目でガリガリ・ケガしそうな選手体型は特に中学・高校バレーボール選手に多く見られます。

実際の運動量と摂取エネルギー量が伴っていないケースが多くみられます。

【その2】

バレーボール選手の体つくりや競技力の向上が食事と密接なつながりがあることを知りつつ、意識調査の中では行動に移せない回答が多く感じられました。

(食事傾向への問い 17〜22の回答 41〜45の回答)

これは、自宅〜学校間の通いの選手に特に多く存在する、外食・コンビニエンスストアーの利用方法・ファーストフード・インスタント食品に対する知識の向上や選手に必要な栄養素を理解しながら、いかに自分の持っている金額で必要な栄養素が補給できる食べ物・飲み物を購入することができるか? で、一番重要であるバレーボール選手として各個人の意識の高さ・自覚の問題が挙げられるのではないでしょうか。

栄養の必要性を自覚している選手は多いが、行動に移し実践できるかに疑問点があります。選手に対しては所持している、こずかいで購入する間食・補給食とそのタイミングが、いかに通常の食事で不足する栄養素量を穴埋め可能となるタイミングに変換できる重要なタイミング・位置づけであるかを理解させることが重要です。

また、神奈川県選抜選手の食事スタイルは、朝食・夕食は自宅で昼食は持参する弁当になるが実際の家庭内環境・家庭事情も考慮し、選手以外の父母に対する食事指導も当然必要となります。

父母に対しては、バレーボール選手として・成長期としての栄養必要量がどの程度あるのかを具体的数値に表した説明が必要だと思われます。

    【その3】

バレーボール選手の体つくり=筋力アップ・パワーアップに必要な栄養補給とは?

  との問いに関しては、多くの選手が筋肉=蛋白質と返答できるものの、実際の食事内容と伴わない回答・ケースも多々存在しています。

  (食事傾向・体つくりの視点 23〜34の問い)

 筋力強化に必要な蛋白質補給がいかに簡単で・低価格な食品で実践が可能かを理解させ、又間食等で積極的に補給させるかを指導する必要を感じます。

  例)牛乳・乳製品を飲まない・食べない との回答率50% 

○乳製品    牛乳200ml:約6g  スライスチーズ1枚:約4g 

ヨーグルト1カップ 約3g

  大豆食品   納豆1パック:約5g 豆腐一丁:約15g

  魚      あじの開き1枚:約10g 

  肉      150gステーキ肉1枚:約20g

  サプリメント  プロテイン大さじスプーン3杯:約15g

特に練習終了後の蛋白質補給は、体つくりを効果的に促進できる一日のなかのゴールデンタイムであることを理解させる必要があります。(成長ホルモンの分泌と栄養補給状態が選手にとって如何に大切か再度選手へ認識させ、蛋白質補給が可能な環境つくりが重要。)

これは選抜チームの練習以外で選手が所属するチーム内で日々実践されるか否かで状況が左右されるため、各チーム指導者方々への協力が絶対不可欠ともいえます。

通学時間を何時間もかけなければならない選手に対しては、このタイミングは選手生命を左右するとも言える、重要なタイミングです。

B   特に今後必要と感じられる栄養素について

ア 筋力アップと食事

蛋白質

体つくりに必要な蛋白質量の計算式

   選手の体重×男子【2.5g】女子【2.0g】 = 一日に必要な蛋白質量

神奈川県選抜選手 男子平均体重66kg  女子平均体重60kg

今回の調査結果

理想     : 一日の必要量  男子 約170g  女子 約120g

栄養調査結果 : 一日の摂取状況 男子 約147g(不足分 約23g)

      女子 約 84g(不足分 約40g)

食事内容に各家庭事情により変更・改善できない場合は、前述で説明した内容で特に間食・補給食の取り方が重要になります。

また、所属チームの多くは、朝練習を行うケースが多く、結果として選手個人の朝食にかける時間の欠如等で摂取不足になる可能性が高いです。

練習後に補給できる、食べ物の準備や環境つくりが必要です。

イ 体つくり及び練習に対するエネルギー補給について

性別・運動量・体組成内容で選手個人の必要とされるエネルギー必要量は違うが、中学生・高校生のバレーボールの競技特性として長時間の練習を取り組むチームが多くあります。よって、おおよそではあるが選手が必要としている1日のエネルギー数は以下の通りです。

今回の調査結果

理想     : 1日の必要量  男子 約5,000kcal   女子 約3,500kcal

栄養調査結果 : 1日の摂取状況 男子 約4,000kcal  (不足分 約1,000)

                 女子 約2,500kcal  (不足分   〃   )

男女とも摂取カロリー数は約1,000kcal程の不足があります。

とあるプレミアリーグチームの1日における食事総摂取カロリーは

男子チーム:約5,000kcal〜6,000kcal

女子チーム:約3,500kcal

との報告もあります。

また今回の食事結果内容で成長期のアスリートとして継続すれば、情の熱いトレーニング指導を取り入れても、筋肉を成長させるエネルギーが確保できず、結果として筋力強化は愚か、パワーアップ不足や筋肉疲労の原因や集中力の欠如につながるでしょう。

炭水化物も蛋白質と同様に、選手の体内メカニズムを考えると空腹時間をなくし、常にグリコーゲンとして体内に保存できる状態を食べるタイミングを工夫し作り出す事が、成長過程におけるアスリートの体つくりに重要ではないでしょうか。

選手に対しては、食事と食事の間(食間)にオニギリやパンや果物などを補給する重要性を理解させ、また1日練習を取り組む場合であれば練習中の間食を補給するタイミングもプレーに対する集中力の向上や選手の体つくりには不可欠でしょう。

この点は特に選手父母への協力依頼が必要になるため、間食・補食がなぜ必要かを理解して頂く父母に対する説明も必要です。

体つくりの炭水化物必要量計算式

   選手の体重×男子【8g】女子【6g】 = 一日に必要な炭水化物必要量

神奈川県選抜選手 男子平均体重66kg  女子平均体重60kg

  男子選手の1日に必要なご飯の量 茶碗 約7杯分 

  女子選手     〃         約5〜6杯分

調査結果からは、炭水化物の摂取量が男女ともに必要量の約90%となったが、間食内での菓子パン・清涼飲料水・菓子類による比率の高さがあり、実際に望まれる摂取量とは少々言い難い結果でした。

ウ コンディショニングにつながる栄養素について

バレーボール選手特有のケガは?  

足首・膝等関節の損傷 

ビタミンC 

関節=コラーゲン(蛋白質+ビタミンC) 

ビタミンCは風邪予防では有名ですが、関節の主成分であるコラーゲンを作り出すビタミンでも有名です。しかし、日頃の食事では摂取し難い栄養素です。

今回の調査結果              

理想     : 1日の必要量  男子・女子ともに300mg

栄養調査結果 : 1日の摂取状況 男子 160mg  女子 110mg

成長期の関節保護を考えても、しっかり摂取させたい栄養素の一つですが通常の食事ではなかなか補給しにくいのが現状。柑橘系果物(みかん・オレンジ・キウイフルーツ・グレープフルーツ・いちご・柿)や柑橘系100%ジュースを使用がお勧め。最近では機能性の高い野菜ジュースにも多く含まれているものがある為、選手に対しては、飲み物を購入する際に、炭酸・清涼飲料水等のジュースではなく100%ジュースを購入する自覚を促す指導が必要になります。

父母からの合宿等でチームに対する差し入れする際の食品としては、果物・100%ジュースをチームとしてリクエストしても良いのではないでしょうか。良く菓子パン・お菓子・ジュースの差し入れする場面と遭遇するが、選手に対する意識付けとしては如何な物でしょうか。

骨折・疲労骨折

カルシウム

特に疲労骨折は練習のしすぎ・使いすぎといった問題とカルシウム不足とういう両方が原因とされています。

また練習等により大量に汗をかく汗の中にもカルシウムが多く存在しています。

特に発汗で失われたカルシウムが補給できない付けが、選手生命を左右する重大なケガにつながるケースも多く耳にします。

栄養調査からも、選手からカルシウム補給の重要性を認知する意識はあると見受けられるが、牛乳・乳製品・大豆食品等を積極的に利用するケースは少ない回答が多くみられました。


今回の調査結果

理想     : 1日の必要量  男子・女子ともに約1、200mg

栄養調査結果 : 1日の摂取状況 男子 1,000mg  女子 500mg

常にケガで悩む、不足傾向にある選手へ乳製品の持つ栄養機能の高さを説明し、自宅で食事する際は、コップ1〜2杯の牛乳を積極的に飲用する事がいかに選手にとって必要となるかを理解させる事が重要です。

貧血

鉄分

貧血問題は女子選手の特有なものとのイメージが強いが、男子プレミアムリーグで活躍する選手でも学生の頃に貧血で悩んだという選手も存在します。

食事アンケートでも特に学生の嫌いな食べ物で必ず上位にあげられるレバーを筆頭にほうれん草やひじき・あさり・しじみに鉄分が豊富であると認識している選手も多いが上記食材からは選手に必要な鉄分摂取はなかなか難しい状況があります。

今回の調査結果

理想     : 1日の必要量  男子・女子ともに約20mg

栄養調査結果 : 1日の摂取状況 男子 16mg  女子 8mg

  女子選手については、選手の父母必要量(10mg)以下の摂取状況

通常の食卓ではなかなか用意し難い食材・栄養素でもある為、特に発汗量の多い4月〜9月期間にはサプリメント等も導入し必要量の確保もお勧めです。