(2)フィジカルサポート
1) バレーボールに必要な体力
@ 体力
体力という言葉は、とても不明瞭な概念として使われています。例えば、力士のように身体の大きい人を指して「体力がありそう」とか、陸上競技会において長距離選手がすばらしい記録を出したときに「すばらしい体力だ」などといったりしています。
確かにこれらも「体力」には違いありませんが、体力のどのような要素が優れているのかの説明が必要だと思います。
「体力」とは次の図1に示したように「身体的要素」と「精神的要素」で構成されています。
( 図1)
形態 体格
行動体力 筋力
敏捷性
身体的要素 持久力
機能 パワー
平衡性
柔軟性
協働性
構造 器官、組織の構造
防衛体力 温度調節
「体力」 機能 免疫
身体的ストレスに
対する抵抗力
意志
行動体力 判断
精神的要素 意欲
防衛体力 精神的ストレスに対する抵抗力
健康的な生活を営むために必要とされる能力や、健康維持のために行う運動をFitness(フィットネス)といいます。
スポーツにおいては特にこれをフィジカルフィットネス(Physical Fitness)と呼び、広い意味で「体力」を指します。この体力とは、「行動体力」のことで、筋力や瞬発力などにより行動を起こし、持続させ(持久力)、あるいは平衡性、柔軟性や協働性などで調整する能力などが中心となります。行動を起こし、持続させる「エネルギー発揮能力」には骨格・筋系や呼吸循環器系が関与し、「エネルギーコントロール能力」には神経系が深く関わっています。体力の諸要素の現状を調査するとともに、競技特性に応じて必要な体力獲得のためのトレーニング処方を推定する上で体力測定は是非ともしなければならないことです。
A 体力トレーニング
体力の諸要素のなかでもFitnessを構成する代表的なものとして、筋力、持久力と柔軟性があげられます。
ア 筋力
抵抗に対して筋肉が収縮することで発生した力を「筋力」といいます。筋力は握力計や背筋力計、脚筋力計などで測定されるのが一般的です。
筋肉の収縮活動は、等尺性筋収縮(アイソメトリック・コントラクション)と等張性筋収縮(アイソトニック・コントラクション)の2つの様式に分けられています。アイソメトリックは、動かない壁を力一杯押すなどのように、筋が運動を伴わず筋の長さが変化しない筋収縮のことを指します。アイソトニックは運動とともに筋の長さが変化する筋収縮のことを指します。
筋力トレーニングを行うときには目的動作の特性を考慮して、その筋収縮の様式に適合した方法を選択する必要があります。
イ 持久力
ある行動を持続できる能力を「持久力」といいます。疲労に対する抵抗力、疲れにくい能力、疲れから回復する能力も持久力と考えられます。
この持久力はさらに、ある特定の筋や筋群が運動を持続する「筋持久力」と、循環機能を運動の継続のために使う「全身持久力」との2つに大別することができます。筋持久力は各種の反復的な筋力の負荷テストの測定によって知ることができます。また、全身持久力は最大酸素摂取量や乳酸を指標とした測定で知ることができます。
ウ 柔軟性
関節がその可動範囲をどのくらい大きく動かせるかを「柔軟性」といいます。ある運動を行うとき、柔軟性が低下した状態では筋肉や腱、靱帯は拮抗筋の伸展を制限し、関節の可動域が狭くなります。体前屈のような静的な柔軟性は、競技成績に直接的な影響は少ないといわれています。しかし、動きの大きさや滑らかさが必要なスポーツでは、技術性の高い動的な柔軟性が重要視されています。
効果的なトレーニングによって育成された一流競技者と非鍛錬者の体力とでは、筋力で1.8〜2.0倍、柔軟性で1.4〜1.7倍、敏捷性で1.2〜1.5倍、全身持久力で1.8〜2.5倍の能力差があるという報告があります。これをスポーツ選手のトレーナビリティー(Trainability)と呼んでいます。トレーナビリティーは性別や年齢と関係が深く、発達段階によるトレーニング開始の至適年齢を考慮する必要があります。
女性の体力レベルのトレーナビリティーは、男性を100%としたとき筋肉量90%、脂肪量170%、筋力60〜70%、パワー40%、全身持久力80%に相当するという報告があります。
陸上競技などの走・跳・投、水泳、器械体操のような神経系の運動は幼稚園から小学校3・4年生の時期に、調整力の発達にしたがって各種のボールゲームなど多用な運動経験を与えるとよいとされています。また、神経系や筋の瞬発力(パワー)・敏捷性・柔軟性などの運動は小学校高学年から中学生時代の成長期に、筋持久力や全身持久力の運動は高校時代に開始すると効果的であるといわれています。
目的とする運動やスポーツに必要な体力向上のためには、しかるべき原理や原則に基づいた一定期間のトレーニングを計画しなければなりません。
(トレーニングの三大原理)
ア 過負荷の原理
「トレーニングに伴う筋肉量の増加は、運動の強度が日常の生活レベル以上であるときに起こる」ということです。これは、日常の家事や労働でかなり動いても習慣化されてしまうためトレーニングにはならないということで、ウォーミングアップでも同じことがいえます。そのため、体力や筋力の向上に合わせて漸進的に負荷(トレーニングの強度)を高めてゆくことが大切です。
急激に負荷をあげると、効果はおろかスポーツ障害やケガを引き起こす原因にもなりますので注意が必要です。
イ 可逆性の原理
トレーニングの頻度が高くなれば、その効果は外見だけではなく身体能力や競技成績にも反映してきます。けれども、トレーニングを中止すると身体はもとの水準へと戻り、筋力や筋量はその人が日常的に使用しているレベルにまで後退してしまいます。この特性を可逆性といいます。トレーニングを行うと、身体に疲労が生じます。そこで適度な休養をとると、トレーニング前よりも若干体力的に高まった状態へと回復します。これを「超回復」といい、トレーニングの負荷によってその出現も異なります。週当たり三日の頻度が現状維持レベルともいわれています。
ウ 特異性の原理
トレーニングで最適な効果を得るためには、その目的に合わせてトレーニングの種類・強度・量・頻度を選択して内容を決める必要があります。
身体部位の「どこ」を使って、「何を」、「どのように」機能させるかを明確にすることが必要なのです。
(トレーニングの五大原則)
ア 意識性の原則
指導者からの一方的なものばかりでなく、トレーニングの特性や効果を自ら理解して積極的な取り組み・実践ができるような方向付けが必要です。
イ 全面性の原則
身体の部位別のトレーニングよりも、全身のバランスに配慮するとともに、体力の構成要素(筋力・持久力・柔軟性)などを多面的に高めるプログラムを実施することが重要です。特に身体の発育・発達の著しいジュニア期には、さまざまな運動に取り組み、全身を使ったオールラウンドなからだづくりが望ましいといえます。
ウ 反復性の原則
体力や技能の要素は短期間で向上し、効果が出るものではありません。トレーニングを反復して繰り返すことで適切な能力が習得でき、効果も期待できます。トレーニングの可逆性という特性を踏まえて、計画的、継続的に実施することが大切です。
エ 個別性の原則
体力や技能には個人差がありますので、トレーニングを行う個人の諸要素(目的、年齢、性別、身体能力など)に合わせてプログラムを組むことが必要です。個別性に配慮しないで行うとオーバートレーニングなどに陥り、その効果も小さいものになってしまうおそれがあります。
オ 漸進性の原則
トレーニングの過負荷の原理に従い、身体能力の向上に合わせて、内容を簡単なものから難しいものへ、弱いものから強いものへとトレーニングの質や量を計画的に高めていくことが必要です。
(発達曲線の特徴)
今回の「(バレーボールにおける)一貫指導体制推進モデル事業」において研究対象者は中学生期から高校生期の選手達です。小学生後期から始まる成長期の子どもたちにトレーニングを課す場合、身体の諸機能が最も成長する時期に合わせて行うことが重要になります。子どもは「小さな大人」ではなく、年齢に応じて成長を重ねていくものです。「スキャモンの発達曲線」に示されているように、リンパ型・生殖型・神経型・一般型に分類され、年齢にしたがって各器官が発育・発達していきます。発達曲線の特徴を整理してみると、
ア 「リンパ型」は胸腺、扁桃、リンパ節など免疫力を向上させる組織が含まれており、12歳ころに成人の2倍近くになり、思春期を過ぎてから成人レベルまで下がります。
イ 「生殖型」は12〜14歳以降の二次性徴を進行させ、性ホルモンの分泌などにより性差が現れ始め、心身ともに急速に大人に近くなっています。
ウ 「神経型」は、敏捷性やバランスなどスポーツに大きな影響を及ぼすことが知られていて、6〜10歳くらいにかけて発達が著しく、スポーツの基礎はこの時期に作られるので、子どもがいろいろな遊びやスポーツを通して、楽しく運動できるようにする配慮が必要です。
エ 「一般型」は骨格、筋肉や諸臓器が含まれ、スポーツの技能や持久力などに重要な役割を果たしている。年齢とともにゆっくりと発達しているといえます。また、年間の発達量を調べた宮下の報告によれば、身体の機能は「神経系」「呼吸循環系」「身長」「筋系」の順に発達しています。「身長」は幼児期から徐々に増大して14歳ころをピークに、その後は減少して18歳でほぼゼロに近づきます。動作の習得に関わる「神経系」は、幼児期から8歳ころにかけて発達した後急速に減少します。ねばり強さに関わる「呼吸循環系」は、幼児期から徐々に増大し12・13歳でピークに達した後減少していきます。
力強さに関わる「筋系」は、12・13歳から急速に増大して15・16歳でピークに達し、その後はゆるやかに減少する傾向があるということです。
これまで述べてきたことを念頭に置いて身体の形態や筋力、敏捷性、持久力、パワー、柔軟性などを定期的に測定することが、選手個々のその時点での状態や以前との比較を容易に把握することができるとともに、以降の改善や強化の方向性を検討する上で大変重要なことであると考えられます。
その測定結果のブロックジャンプ(BJ)とスパイクジャンプ(SJ)の到達高から、
男子:身長/243×{(BJ−243)+(SJ−243)}
女子:身長/224×{(BJ−224)+(SJ−224)}
(単位:cm)
というバレーボール指数(VB指数)を算出することができます。この指数をもとに敏捷性や持久力などを加味して選手の特長を生かしたチーム作りが可能となることでしょう。
B 一貫指導における体力測定の実施内容とその評価
体育センター競技力向上コースを利用して3年間経年的に身体能力を評価し、測定は、以下の検査項目について実施しました。結果は別添資料で提示します。
体勢・体格:利き手、ジャンプ足、キック足、身長、体重、胸囲、上腕伸展囲、上腕屈曲囲、前腕囲、大腿囲、下腿囲、体脂肪率、脂肪重量、除脂肪体重、(片手指高、両手指高)
筋力: 背筋力、脚伸展筋力、脚屈曲筋力、握力、(9m往復走)
瞬発力: 立ち幅跳び、(ブロックジャンプ、ランニングジャンプ、3回跳び)
筋持久力: 30秒上体おこし
全身持久力:20mシャトルラン、VO2MAX
敏捷性: 反復横跳び(20秒・100cm)、座位ステッピング、全身反応時間
柔軟性: 長座体前屈
JOCカップ選手選抜にはKVA体力測定項目にて実施しました。
J指数、身長、体重、胸囲、指高、握力、背筋力、3回跳び、垂直跳び、
Bジャンプ、Sジャンプ、垂直実測、SJ実測、9m往復走、反復横跳び、
立位体前屈、上体反らし
男女共に全体的に全国平均値より若干上回るレベルにあります。日本バレーボール協会全国中学選抜選手とのバレーボール固有の測定項目では身長の違いでジャンプ到達点に格差があります。各自の特徴を生かして科学的に競技力の向上につなげていきたいと思います
C トレーニングの実践
子供のスポーツ指導で理解しておきたいのは、発育・発達のことです。子供の身体は18歳くらいまで、加齢とともに大きくなります。50cm前後で出生した子どもの身体は、4〜5歳で2倍の100cmになります。小学生期には1年間に5〜6cmの安定した成長が見られます。一般的に女子では10〜11歳で、男子では12〜13歳になると急速な成長が見られ、一時期女子の平均身長が男子のそれを上回る時期があります。その後、男子が女子を抜いて成人となり、成長が止まります。
身長の伸びは骨の伸びであり、骨によって化骨化する年齢(成長が止まる年齢)が異なることも知っておく必要があります。化骨化する前の骨に、過度な荷重をかけると、骨や関節に障害が発生する危険性が高くなることも、スポーツ指導においては知っておく必要がある大切な基礎知識です。
体重は、出生時が3kg前後で、1歳で3倍の10kg、10歳で10倍の30kgとなります。女子では11〜14歳、男子では13〜14歳で急激な体重増加が見られます。指導者や親は子どもの体重が少ないことや身長が低いことを心配しますが、スポーツ医学的には、異常に身長が高い子どものほうが問題です。
スポーツ中の突然死の危険があるマルファン症候群を疑う必要があります。女子の指導においてはとくに、性の発達も知っておかなければなりません。日本人女子の二次性徴は、乳房の腫大(9〜11歳)、恥毛の発生(10〜13歳)、初経発来(11〜13歳)の順に見られ、年々出現年齢が早くなっています。なかでも重要なのは初経発来です。スポーツ選手は遅れるという報告もありますが、15〜16歳になっても月経が始まらない場合には、婦人科またはスポーツドクターに相談、治療をする必要があります。
ア 年齢&年代計画
● 発育・発達過程に合わせてトレーニング内容に変化を現場でどのようなトレーニングを行えばよいかを考える上で欠かせないのが年齢計画です。
年齢や成長の過程によって、フィジカル面の特徴やフィジカル要素のトレーナビリティ(トレーニングによって伸びる能力、可能性)は異なります。したがって、年齢に応じてトレーニング内容を明確にするためにも、発育・発達過程を考慮し、体力の特徴などから育成年代をいくつかの過程(時期)に分けて考える必要があります。
(発育・発達過程における各区分の呼称)
プレ・ゴールデンエイジ 5〜9歳(幼児〜小学校低学年)
ゴールデンエイジ 9〜12歳(小学校高学年)くらい
ポスト・ゴールデンエイジ 12〜15歳(中学生)くらい
インディペンデント・エイジ 15歳〜(高校生)
● 年代別に発展させる発育発達に応じたスポーツ活動のガイドラインとして、日本のスポーツ指導者の間で広く活用されてきたものが「スキャモンの成長発達曲線」です。プレ・ゴールデンエイジ(小学生低学年期)、ゴールデンエイジ(小学生高学年期)では神経系の発達が著しいことから「動きづくり」を重視し、なおかつレクレーショナルに工夫する必要があります。
ポスト・ゴールデンエイジ(中学生期)では、神経系をより複雑に、スピードも速く、ゲームで起こるシチュエーションを設定するといった感じになると良いでしょう。また、ポスト・ゴールデンエイジ(中学生期)での大きな特徴は「発育スパート期」(第2次性徴期)と呼ばれるからだの諸器官が著しく発達する段階に入ることが挙げられます。呼吸器や循環器も発達するので、これらの伸びようとする要素に適切な刺激を与える必要があります。
つまり、持久力アップをはかり、神経系のトレーニングを行っていく必要があります。さらに、この時期は「成長痛」と呼ばれるスポーツ障害が非常に多くなります。成長過程にあるため骨端などが柔らかいこともあり、その箇所における障害のリスクが高くなるのです。ですから身長の年間発育量がピークを過ぎて骨の成長が終了に近づく15才ころから本格的な筋力トレーニングを開始することを推奨します。その後のインディペンデント・エイジ(高校生期)では、骨の成長が緩やかになり、成長痛の可能性が低下します。同時に筋力的なトレーナビリティが非常に高くなるので「ストレングス・トレーニング」(筋力トレーニング)を積極的に導入していくべきです。
この時期から、すべての要素のトレーニングに取り組むことが可能になるのです。プライオメトリック・トレーニングやスピード・トレーニングといった筋肉対して高強度のトレーニングも行える時期といえるでしょう。
イ 小学生の時期のトレーニング
小学生の時期は、俊敏性や巧緻性などの「神経系」の発育がさかんになります。とくに目で見たことを脳で理解し、思い通りにからだを動かす「巧緻性」が集中的に発達するのが、小学校低学年「プレ・ゴールデンエイジ」の時期です。さらに、人の動きを数回見ただけで、すぐにマネができてしまう「即座の習得」といわれる能力が、小学校高学年「ゴールデンエイジ」で伸びてきます。小学生ではバレーボールをはじめ、あらゆるスポーツで必要とされる神経系の働きを伸ばす重要な時期です。逆に過度な筋力トレーニングは、まだ骨の柔らかい小学生にとって望ましいトレーニングであるとはいえません。「基本的な運動動作の習得」を目標にトレーニングをします。さまざまな運動や競技を体験させ「動きをつくる」ことが大切です。
● 神経系トレーニングとは?
まずは「神経系トレーニング」についてあらためて考えてみたいと思います。
神経というのは、「運動器」と「感覚器」を支配しているといえます。運動器とは筋肉のことで、筋肉の役割としては関節を動かしたり、安定させたり、固定して力を発揮するということが主に挙げられます。したがって、筋肉を収縮・弛緩する、または関節を動かす・固定するといったことを「ゆっくり・速く」「大きく・小さく」あるいは「強く・弱く」というように調節することは、神経系のトレーニングの一つになると言って良いでしょう。さらに、それによって多くの筋肉や関節が関われば、多くの神経が活性化されることになるので、これもまた神経系のトレーニングといえるでしょう。
スポーツの技術は、関節の動き、中でも関節の「連動」によって発揮されると考えることができます。
つまり、関節の連動は技術の形成(=技術練習)において非常に重要なファクターとなります。
したがって、技術の形成は神経系の働きと密接な関係があることになります。だからこそ、神経系の発達の著しい小学生年代での取り組みが技術の形成において非常に大切になるのです。
一方の感覚器とは、簡単に言えば「目」「耳」「鼻」「舌」「皮膚」のことです。その中でも目によって得られる感覚、すなわち視覚というものを考えると、バレーボールにおいて必要なる要素はいろいろありますが、中でも空間認知能力が小学生年代からトレーニングとして必要な要素だと考えられます。
空間認知とは、端的には「物の位置関係を把握すること」を言いますが、バレーボールでのプレーを考えた場合、空中にあるボールの落下地点の判断と深い関連があるのは想像しやすいことだと思います。
スパイクなど技術的な部分ももちろん大切ですが、空間認知の部分も非常に重要です。スパイクなどで落下地点の判断が上手くできずに、ボールを上手くミートできない選手が高校生などでもたびたび見られます。こういった能力を高めるには、神経系が発達するジュニア期から積極的に行っていく必要があるのです。
このように、運動器や感覚器に積極的に刺激を与えていくことが、神経系のトレーニングを構成する根本的な部分だと考えられます。
● 4本柱で行う小学生年代のフィジカル・トレーニング
小学生年代のフィジカル・トレーニングの考え方としていかの4本柱くらいで行えばよいと考えています。
n コーディネーション・トレーニング
n 正しいフォーム&動き作りのトレーニング
n シンプルな対人トレーニングや鬼ごっこ、ハンドパスなどによるゲーム
n 空間認知を目的にしたボール・トレーニング
それぞれの、柱のトレーニングにおける具体的な要素
(1)コーディネーション・トレーニング・・・複雑な運動に対する動きの質
@シンプルな動きを複数組み合わせる
・ステップワークの組み合わせ
ポイント 複雑な運動を構成する
・ステップワークとリカバリー
・ジャンプと推進
・ステップワーク、ジャンプ、体幹捻り、推進
A複雑もしくは非日常的な一連の動作を行う
・バランスがとれていない状態からのリカバリー
・バランスがとれた状態のキープ
ポイント 運動時のアライメントの修正 (→パフオーマンスアップ、 傷害予防に繋がる)
・クロスオーバーステップとスキップ
B複雑性が可能な箇所の活性化を図る
・股関節、肩甲帯などの他方向性
(2)正しいフォーム&動き作りのトレーニング
@フォーム(動きやすく安定している) Aランニングフォーム
B各種ステップワーク C減速・ストップ
D方向転換 Eジャンプ
(3)シンプルな対人、小グループ・トレーニングや鬼ごっこ、ハンドパスなどのゲーム
(4)空間認知を目的にしたボール・トレーニング
従来行われてきた、ラダーやミニハードルなどだけではなく、もう一歩進んで、トレーニングの要素(目的)を明確化することでさらに効果的なコートに直結したトレーニングが可能になるといえるでしょう。しかも、バレーボールの実際のプレーから必要とされる要素を抽出しているので、当然バレーボールのパフォーマンスアップにも繋がるはずです。
● 低学年は「スパイス」として、高学年は計画的に
低学年(プレ・ゴールデンエイジ)であれば、スキルのトレーニングの合間にこういった身体を使う要素をちりばめていくイメージで行い、高学年に向けていろいろな動作を行うことで神経網を活性化させることがトレーニングの目的になります。また、この時期の子供たちは精神的に「飽きっぽい」という特徴があるのも事実です。
したがって、独立したフィジカル・トレーニングの時間を設けて行うというよりは、練習の合間に少しずつ、そしていろいろな動きの要素を「スパイス」のように取り入れていくのが良いでしょう。
高学年(ゴールデンエイジ)になれば、選手にも集中力がついてくるので、ウォーミングアップや練習の最後などで、ある程度時間をとって計画的に取り組んでいっても良いでしょう。とくにウォーミングアップとしても代用できるものもたくさんあるので、アップ変わりに積極的に行っても良いと思います。
ウ 中学生の時期のトレーニング
中学生の時期におもに成長する能力は持久力です。心肺機能と筋持久力が、著しく発達します。そして成長差の激しい思春期というだけでなく、体力的にも技術的にも本格的になる高校バレーの下地をつくる意味でも、非常に大切な年代といえます。
この時期は骨の成長で筋肉が伸びた状態になっているため、からだが急激に硬くなることも珍しくありません。しっかりストレッチをして柔軟性を高めておくことが大切です。毎日の習慣にしておけば、ケガのリスクも低くなります。
ランニングなどの有酸素運動も大切です。有酸素運動によって毛細血管が筋肉に巻きつくように発達し、筋肉のすみずみまで酸素を供給できるようになります。その結果、筋肉の持久力が増し、心肺機能も高まり、ハードな反復練習にも耐えうるからだに成長していくのです。
中学生でも巧緻性を伸ばそうとすることは大切です。神経系の発達のピークは小学生の時期で、年齢が上がるにつれ、その習得能力は落ちてくるのも事実ですが、あくまで習得能力が落ちるだけで身につかないわけではないので、中学生になっても巧緻性のトレーニングをしていくことは必要です。その上で持久力をつけておくことが将来的に重要です。
● 6本柱で行う中学生年代のフィジカル・トレーニング
中学生年代のフィジカル・トレーニングの考え方として、小学生年代に行ってきた4本の柱に持久力とストレングス(筋力)トレーニングを足した6本柱くらいで行えばよいと考えています。
n コーディネーション・トレーニング
n 正しいフォーム&動き作りのトレーニング
n シンプルな対人トレーニングや鬼ごっこ、ハンドパスなどによるゲーム
n 空間認知を目的にしたボール・トレーニング
n CR・CV(持久力)トレーニング
n 補強トレーニング(ストレングス・トレーニング、サーキット・ストレングス・トレーニング)
それぞれの、柱のトレーニングにおける具体的な要素
(1)コーディネーション・トレーニング・・・複雑な運動に対する動きの質
@シンプルな動きを複数組み合わせる。
・ステップワークの組み合わせ
ポイント 複雑な運動を構成する
・ステップワークとリカバリー
・ジャンプと推進
・ステップワーク、ジャンプ、体幹捻り、推進
A複雑もしくは非日常的な一連の動作を行う。
ポイント 運動時のアライメントの修正 (→パフオーマンスアップ、 傷害予防に繋がる)
・バランスがとれていない状態からのリカバリー
・バランスがとれた状態のキープ
・クロスオーバーステップとスキップ
B複雑性が可能な箇所の活性化を図る
・股関節、肩甲帯などの他方向性
(2)正しいフォーム&動き作りのトレーニング
@フォーム(動きやすく安定している) Aランニングフォーム
B各種ステップワーク C減速・ストップ
D方向転換 Eジャンプ
(3)シンプルな対人、小グループ・トレーニングや鬼ごっこ、ハンドパスなどのゲーム
(4)空間認知を目的にしたボール・トレーニング
(5)CR・CV(持久力)トレーニング
・乳酸が貯まらない走速度での持久力トレーニング
・高い運動強度で連続して動く持久力トレーニング
(6)ストレングス・トレーニング
補強トレーニング、サーキット・ストレングス・トレーニング
小学生年代には組み込まれていなかった、CR・CV(持久力)トレーニングとストレングス・トレーニングの2本の柱を加えて中学生年代はフィジカル・トレーニングに取り組むようにします。
● 中学生年代には補強トレーニングを
本格的なストレングス・トレーニングは高校生年代からとしても、中学生年代にも有効なストレングス・トレーニングはあります。それが、補強トレーニングです。中学生年代からいろいろな障害のリスクが出てくるので、その予防として非常に有効です。
また、近年背筋力の低下には驚くべきものがあります。次の年代になってもバレーボールを楽しめるようにするためには、バレーボールの技術練習だけでなく、補強トレーニングにも積極的に取り組みましょう。
行って欲しい補強トレーニングとしては、
・腕立て伏せ
・いわゆる腹筋
・いわゆる背筋(上体を台より前に出したバックエクステンションなど有効)
・懸垂
などが挙げられます。使いすぎ症候群での障害が多く発生するのと同様に、近年は筋力が不足していることでの痛みが増加していますので、先に述べた補強トレーニングの強度を見極めて指導していくことが重要となります。各種目において10〜20回程度の負荷で2〜3セットは行えるようにして取り組んでいきましょう。
● サーキット・ストレングス・トレーニング
中学生は、呼吸・循環器系のトレーニングに適した時期なので、筋力トレーニングにおいても、心肺機能や筋持久力向上を目的としたプログラム「サーキット・ストレングス・トレーニング」を導入するのもよいと考えます。
中学生を対象としてサーキット・ストレングス・トレーニングでは、身体各部位のエクササイズを8〜12種目程度選択して同じ部位が連続しないように、「上半身での押す動作のエクササイズ」→「下半身のエクササイズ」→「上半身の引く動作のエクササイズ」→「体幹のエクササイズ」の順に配列するのが良いでしょう。負荷はフォームを崩さずに20〜30回反復できる程度とし、1種目に20回程度、種目間の休息をできる限りとらずに1セットずつ実施すると良いでしょう。また、回数ではなく時間で各種目を区切れば、負荷のかけ方に多少問題が出ますが、一度に多くの選手が行えるというメリットもあります。
年間を通じて実施すると、オーバーワークや、プログラムに飽きがきやすいといったことに留意する必要があります。週の頻度では2回程度の実施でよいでしょう。
エ 高校生の時期のトレーニング
高校生の時期は生殖器系の発育が著しく性ホルモンによる男女差がはっきりしてきます。特に男性では男性ホルモンによる骨格筋の発育が著しい時期です。また、この頃から女性では貧血などの問題も多くなってきます。この時期には「力強くなること」を目標としてストレングス(筋力)トレーニング等を積極的にはじめていきます。
また、本格的なスピード・トレーニングを開始する時期でもあります。ランニングフォームをまずはしっかりと育成し、ある程度フォームが固まってきたら、スピードアップ・方向転換などを加え、少しずつ難易度を上げ、アジリティの要素を加えていくようにします。このようなトレーニングは神経系のトレーニングであるため、選手が疲れていないときに行うことが重要で、運動休息比を1:15で設定するのを目安とします。
● 6本柱で行う高校生年代のフィジカル・トレーニング
高校生年代のフィジカル・トレーニングの考え方として、基本的には中学生年代に行ってきた6本の柱で行えばよいでしょう。6本の柱に変化はありませんが、質的にはストレングス・トレーニングを積極的に行い、プライオメトリクス・トレーニングやスピード・トレーニングに発展していけるようにしていきます。
n コーディネーション・トレーニング
n 正しいフォーム&動き作りのトレーニング
n シンプルな対人トレーニングや鬼ごっこ、ハンドパスなどによるゲーム
n 空間認知を目的にしたボール・トレーニング
n CR・CV(持久力)トレーニング
n ストレングス・トレーニング(競技パフォーマンスの向上と傷害予防)
● 積極的にストレングス・トレーニングを取り入れていく高校生年代
ストレングス・トレーニングの導入段階については、高校生年代からが望ましいでしょう。高校生になると、骨格の発育が一段落し、本格的に高負荷の筋力トレーニングが開始できるからです。この時期に筋力トレーニングを開始することは、大変重要であり、この時期の筋力トレーニングの出来栄えが、選手としての生涯最高の競技パフォーマンスに大きな影響を及ぼすといっても過言ではありません。
また、シーズン制を敷いている外国を考えると、アメリカンフットボールをやっている選手がバレーボールをやっているわけです。ということは、とても高いストレングス・トレーニングを行っている選手がバレーボールを行っているのです。ですからあのようなエクスプローシヴ・パワーをもっているのです。決して、単純な身体格差からのみ、パワーの差があるわけではないということに、指導者は気づいて積極的にストレングス・トレーニングを導入すべきです。
● バレーボールの競技特性から考えられる
ストレングス・トレーニングで向上させたいフィジカル要素
ストレングス・トレーニングをすることで、どのような要素が向上するのか理解していくことが、トレーニングの導入・継続に重要です。以下に、ストレングス・トレーニングで向上させたい要素と基本的な考え方を示していきます。
@「跳ぶ」ための筋肉とエクスプロージョン(瞬発力)
バレーボールのパフォーマンスにおいて非常に大事な要素です。「Extensor Thrust(エクステンサー・スラスト)」という関節を伸ばしながら推進するタイプのエクササイズを重要なファクターの一つにします。バレーボールの基本的な動作である「跳ぶ」を考えた場合、股関節と膝関節を伸ばしながらのエクササイズがこれにあてはまります。このような要素を満たすエクササイズが、バレーボールにおけるストレングス・トレーニングでは非常に重要になります。
A「方向転換」のためのエクスプロージョン
バレーボールのパフォーマンスでは、ただ「跳ぶ」だけではなく、方向転換というのも重要な要素になってきます。ただ前方に走るという動作は股関節の伸展と屈曲の繰り返しになりますが、方向転換の動作を加えると当然前方に走るときとは違った股関節の周辺筋群を使うことになります。こういった部位のトレーニングも実施することで、爆発力や瞬敏性も養われます。
B「減速・ストップ・方向転換」のためのエキセントリック・コントロール
移動している状態からの減速やストップ、方向転換をするためには、筋肉のエキセントリックな収縮が不可欠になってきます。主に股関節・膝関節の周囲筋群によるこの収縮は、ストレングス・トレーニングの中で鍛えることができる要素です。エキセントリック収縮をコントロール(制御)するトレーニングも非常に重要になってきます。
C「前・上への推進」「スパイク」のための上半身の筋肉
強いスパイクの場面を考えた場合、体の質量が大きい選手のほうが有利になります。そのために上半身や体幹の筋量を増やすことは手段の一つです。また、肩甲骨周辺の筋群(インナーマッスル)もスパイクで重要な役割を担っています。
瞬発的な動きやジャンプの際に「前・上への推進カ」が大きければ、それだけ大きな動きや力強いジャンプが可能になります。ジャンプでは、上半身の力がジャンプ力の40%近くを占めるという研究結果もあります。しっかりした力強い上半身の動きはジャンプ力の助けとなります。
腕を振り上げる動きや強いスパイクボールをレシーブするためには、肩甲骨周囲の強さと柔軟性がポイントになるのです。ボディバランスを考えた場合も肩甲骨周囲の強さと柔軟性は非常に大切です。
D「体のキレ」「全身の効率的な筋カ発揮」「バランスの安定性」「傷害予防」のための体幹の筋肉
腰や腹筋といった体幹部は体のキレを作る上で非常に重要です。また、腹筋そのものは腹腔圧を上げるので体全身の効率的な筋カアップにも欠かせません。
腹筋を鍛えることは全身の筋力発揮に役立ちます。
ホディー・バランスの向上や、腰痛などの障害予防のためにも鍛えていく必要があります。