バレーボールの指導・強化において、医科学研究の果たす役割は年々大きくなっています。この分野は大きく医事、体力、心理、戦力分析に分類されるが、今回の一貫指導においては神奈川県バレーボール協会の科学調査研究委員会の各部スタッフが主に担当し、指導方法の確立とチーム強化への活用を試みました。
ここでは、A.戦力分析、B.医学的サポート(フィジカルサポート、メンタルサポート、メディカルサポート、栄養サポート)について項目ごとに概要、一貫指導での活動内容、推奨される指導方法、について記述することにします。
バレーボールの戦略に影響する技術としてはサーブ、サーブレシーブ、トス、アタック、ブロック、レシーブがあり、それぞれが戦力分析の対象となる。試合あるいは練習中に各技術に対して誰が、どのように実施し、どのような結果になったかを統計的にデータ収集することが戦力分析の本質となります。
バレーボールの技術の種類によりどのような観点でデータ収集するか、あるいは分析を行うかは異なっています。技術の種類による、実施形態および結果の相違を表1に示すことにします。
技術の種類 | 実施形態 | 結果 |
サーブ | 何処から何処へ打つ 球種(ジャンプ、フロータ、ドライブなど) |
エース(得点) 相手の攻撃を崩す >相手の攻撃を許す ミス(失点) |
サーブレシーブ | 何処で受ける、 フォーメーション |
優秀(セッターがコンビを使える) 良好(セッターがトスをあげられる) 可(二段トスが上げられる) 不可(トスが上げられない) ミス(失点) |
トス | 何処へあげる、トスの振り分け | 優秀(アタッカーが思うように打てる) 良好(アタッカーが打てる) 不可(相手に返球するだけ) ミス(失点) |
アタック | 種類(遅攻、速攻、時間差など)、 コンビネーション |
エース(得点) 相手を崩す 相手につながれる ミス(失点) |
ブロック | 何人で | エース(得点) 相手側へブロックが返る 味方がつなぐ 味方がつなげない |
レシーブ | 何処で受ける、 フォーメーション |
優秀(セッターがコンビを使える) 良好(セッターがトスをあげられる 可(二段トスが上げられる) 不可(トスが上げられない) ミス(失点) |
各技術に対して、このような観点から各個人のデータ並びにチームとしてのコンビネーションあるいはフォーメーションデータを基本とし、ゲームの中でのセットや点数によるデータの特徴の変化、さらには対戦相手のチームの特徴や優劣による変化などを分析のターゲットとしています。
バレーボールにおけるデータ活用は、自チームの分析及び相手チームの分析に大別されます。「己を知り相手を知れば百戦危うからず」というように、両者の特徴を十分理解しておくことが戦いを有利に進める上で非常に重要です。
練習、練習試合を通じて得られる自チームのデータは改善すべきポイントの抽出やさらに伸ばすべきポイントの抽出などに使われます。指導者は自チームのデータを十分理解し改善指導に役立てなければなりません。更に、自チームのパフォーマンスデータは試合を行う際の戦略決定にも利用されるべきであると思われます。
対戦前あるいは対戦しながら収集する相手チームのデータは当該試合の戦い方を決める重要なポイントとなります。相手の戦略をデータとして理解することにより、どのように守りどのように攻めるべきかがわかってくるので、効率的な対応が可能になります。
表2にアタックを例にとって、どのようなデータがどのように利用されるかを具体的に示してみます。
表2 アタックに関する戦力分析の概要及びその活用例
項目 | 集めるデータ | 何が判るか | 活用方法 |
アタック (トス廻し, 各種コンビ) |
@.誰がどこからどこへ打ち、 どうなったか A.ゲーム進行に伴う変化 B.サーブカットからの攻撃 パターン |
@.コースの特徴 A.決定率 B.トスの集まり方(集中率) C.トス廻しの特徴 サーブカットからラリー中 D.上に書いたことのゲーム 進行に伴う変化 |
@.誰をマークするか A.ブロックをどうするか B.レシーブをどうするか C.相手のコンビを予測する D.ゲームの流れに応じ誰の どんな攻撃をマークする |
相手がどのようなコンビを使いながら誰がどこからどこへ打ってくるのが多いかが予め判っていれば、ブロックおよびレシーブでの対応の仕方をある程度制限することができ、その結果としてプレーの成功確率が向上します。
@ データの種類
バレーボールで活用されるデータは数値データ、数値データを基に作成した図式データ及び映像データがあげられます。
数値データの代表としては、個人あるいはチームのアタックやサーブの打数、決定数、決定率、トス、レシーブ、サーブレシーブの成功率などがあげられます。図式データとしてはアタックやサーブが打たれるコースを図中に線で示したり、レシーブフォーメーションを図示することが例としてあげられます。さらに、これらのデータの理解を深める手段として、ビデオ撮影した映像の活用が行われています。
A データの収集方
数値データ及び図式データの基となる基礎データは様々な方法で収集されます。従来、データの収集は手書きで収集されていましたが、20年ほど前からコンピュータが発達し大量のデータが効率的に収集可能となり、現状では一人でバレーボールのほとんどのデータを収集可能なソフトも開発されています。
また、映像データについても従来は撮影した映像データを手動で編集していましたが、現在では試合経過に伴いデータを入力することにより撮影した映像を自動的に編集するソフトも開発されています。