(11)ウォーミングアップ・ストレッチ
「ウォーミングアップ、大事にしていますか?」
「ケガを減らす(予防する)ためにも、『正しいアップとダウン』を行う必要があります。」適切なウォーミングアップは「ケガ予防」にとどまらず、「パフォーマンス向上効果」も生み出します。ウォーミングアップを通して、「個々の筋肉を鍛えるのではなく動きを鍛える」そして「選手のトータルコンディショニング」まで、成果をあげることができれば、ウォーミングアップがカラダ慣らしの時間ではなく、しっかりとした練習(トレーニング)になることでしょう。
今回あげる様々なウォーミングアップを一つの叩き台として、各チームに必要なウォーミングアップを創っていくことがコーチの楽しみになってほしいと思います。
その際に理解しておかなければならない、重要なコンセプトがあります。
1) WARMIMG UP
@ 基本的なコンセプト
ア 来るべき運動のためにからだを準備する(日常生活レベルから運動レベルまで心身の状態を移行させる)。
イ パフォーマンス向上(バレーボール動作がよりよく行える状態をつくる)
ウ ケガ予防・再発予防
A 具体的な目的
ア 体温を上げる=筋肉群の「伸縮」活動を行いやすい状態にする。
イ 心拍数・呼吸数を上げる。
ウ 神経系を活性化する(神経系のスイッチをONにする→反応をよくする)。
エ 動的柔軟性を高める。
オ バランス・コーディネーションに関わる反射活動を高める。
カ 基本的なムーブメントスキル(動作技術)を発達させる=あらゆる運動能力を目覚めさせ、鍛える。
B ウォーミングアップに含むべき要素
ア 心拍上昇(ウォーキング、スキップ、ジョギングなど強度の低い運動から始める)
イ ストレッチ(ダイナミック・ストレッチが主体)
ウ バランス(神経系を活性化)
エ コーディネーション(「方向」「力加減」「スピード」「タイミング」を心がけ一連の動作で行う)
オ 最終活動レベルまで心拍上昇。ボールを使っての特異的、機能的活動
C ウォーミングアップをどのようにつくるか
次へのつながりを考えてウォーミングアップ全体に流れを作る。
基本原則
ア 強度は「弱」→「強」
イ 動作は「単純・基本的」→「より複雑・専門的・特異的」
ウ 可動範囲は「小(狭く)」→「大(広く)」
エ スピードは「スロー」→「クイック(素早く)」・「瞬発的・爆発的」
オ 神経系を活発化する(=起動する、立ち上げる)ことを重視する。
キーワードは“徐々に”(上げていく)
※ 練習やトレーニング前に汗をかくような気温の高い日でもからだが温まっているわけではありません。身体の表面の温度は高くても、必ずしも筋肉などの身体の深部の温度が高まっているわけでないということを覚えておきましょう。
●ストレッチ再考
ウォーミングアップでのストレッチに関してですが、「ウォーミングアップではスタティック(静的)ストレッチは行わない」とする理論が有力になってきています。KuizはScience of Sports Trainingという著書のなかで「静的ストレッチでは筋肉をリラックスさせてしまい、コーディネーションの低下につながる」と指摘し、また、筑波大の村木征人教授も『トレーニングジャーナル』288号で「静的ストレッチはダウンとして行うには鎮静的でよいが、これから試合だという、エキサイトしていかなければならない導入過程ではあまり好ましくない」と述べています。ウォーミングアップの時間は20〜30分が適当であることを考えても、コートで行うストレッチは動的(ダイナミック)ストレッチが主であり、静的ストレッチを行う必要性がある場合は、ストレッチの最初のほうに行って動的ストレッチに移行するか、コートに出る以前に各自で行っておくことが適切ではないかと考えます。
ウォーミングアップでは筋肉の興奮度を高めていくことが必要であるからです。
2)ダイナミック・ストレッチ
ダイナミック・ストレッチは、動的ストレッチという意味で、動きの中で腕や足などをいろいろな方向に回すことで、関節の可動域を広げるストレッチ方法です。ダイナミック・ストレッチは、関節周囲筋の動きを潤滑にするのが目的ですので運動前のウォーミングアップなどに適しています。サッカーでウォーミングアップのときにおこなうブラジル体操などを思い浮かべるとわかりやすいと思います。
また、スタティック・ストレッチは、静的ストレッチという意味で、反動や弾みをつけずに、ゆっくりと筋肉を伸ばしていくストレッチです。スタティック・ストレッチは、緊張をほぐすのが目的ですので、運動後のクーリングダウンなどに適しています。
「ダイナミック・ストレッチ例」
今回、提案するダイナミック・ストレッチは。バレーボールの動き、バレーボールに必要な力を生み出すダイナミック・ストレッチです。正しい動きを身につけることで、バレーボールパフォーマンスの向上をはかり、ウォーミング・アップに止まらず、トレーニング効果も期待できます。
このエクササイズは基本的な動きを中心に編集されていますので、各エクササイズができるようになったら、それぞれのチーム事情に合わせてエクササイズを創造してみても良いでしょう。そうすることで、マンネリ化を防ぎ、神経系・コーディネーション能力の発達を促すことができます。
エクササイズは動かす部位だけを考えるのではなく、踏み込んだ足に戻ってくる反力を感じて動作を行いましょう。下半身からの反力を、体幹−上半身へと伝達をスムーズにできることで、効率的な動きを獲得することができます。足から伝わる反力を感じながらウォーミング・アップを行いましょう。
各エクササイズのつなぎを、歩行、ジョギング、さらにダッシュで行うと、より強度の高いウォーミング・アップになり、バランス、コーディネーションの要素も高まります。それぞれのチーム事情にあわせてエクササイズのつなぎ方を考えてみましょう。
@ 肩まわりの動きをつくる ダイナミック・ストレッチ例
ア ショルダー・アップダウン(肩甲帯の挙上・脱力)
肩の上下運動。猫背にならないように注意。肩甲骨全体を引き上げ脱力。
イ マリオネット(肘の引き上げ)
肘の引き上げ運動。猫背にならないように注意。肘は肩甲骨を背骨に寄せる形で上げ、脱力。
ウ リストアクションA(手首の掌背屈)
腕を左右に広げ、手首の掌背屈運動。左右交互に行う。肩の軸がぶれないよう、手首だけで行う。
エ ハンド・サークルA(肩外転位での内回し)
腕を左右に広げ、手首を90°背屈。手のひらで10〜20cmの円を描くように肩を内側に回す。
オ ハンド・サークルB(肩外転位での外回し)
腕を左右に広げ、手首を90°背屈。手のひらで10〜20cmの円を描くように肩を外側に回す。
カ ショルダー・ツイスト(肩の内・外旋)
肩を左右に広げ、内外旋運動を左右交互に。顔が左右にぶれないよう、カラダの軸を保ちながら行う。
キ ロボット・ロッキング(肩の内・外旋)
腕を左右に開き、肘を曲げる。手は開いた状態で左右交互に肩の内外旋運動をおこなう。
ク フロント&バック・クラップ(肩甲帯の内・外転)
腕を伸ばし、カラダの前・後で拍手。リズミカルに肩甲帯を内外転させる。
ケ アップ&バック・クラップ(肩甲帯の上下方への回旋)
腕を伸ばしカラダの上方・後で拍手しながら肩甲帯を上・下へ回旋。肩甲骨が開く、閉じる状態をリズミカルにおこなう。
コ アーム・サークル(肩の側方へのぶん回し)
サイドステップでおこなう。体幹の前で、肩を大きく回す。腕は内回し、外回しを交互におこなう。
腕を降ろしたときに地面から反力をもらう。(左右両方向おこなう)
A 腰まわり(骨盤)の動きをつくる ダイナミック・ストレッチ例
ア フロント・キック(脚の振り出し 前)
前方でキックの連続動作。膝下はリラックスした状態でおこなう。
イ ニー・レイズ(大腿部の上下 腿あげ)
大腿部を地面と平行になるまであげる。
ウ キャリオカ(脚の前方・後方交差)
股関節の捻り動作を左右交互におこなう。腕を左右に広げると、カラダの軸のブレがわかるので、進行方向が安定する。(左右両方向おこなう)
エ クロス・オーバー(腰きり 狭い)
股関節を内側へ回す運動を早いリズムでおこなう。軸をぶらさないように注意。(左右両方向おこなう)
B ポジション(静)をつくる 〜動きをブロックする ダイナミック・ストレッチ例
ア フロント・ランジ(大股歩行 前)
股関節を前後に開くイメージで大股歩行。カラダの軸に対して真っ直ぐに腰を降ろす。
イ サイド・ランジ(大股歩行 横)
横方向にランジ。低い状態で足の横の筋肉を使って静止。
ウ タッチ・ダウンA
前方へ進みながら片足で止まり、足と同じ方の手のひらで足の甲を抑え静止する。
エ タッチ・ダウンB
前方へ進みながら片足で止まり、足と反対の手のひらで足の甲を抑え静止する。
C ポジション(動)をつくる〜上半身と下半身のジョイント・・・下半身の動きをコントロールする
ア ニー トゥ エルボー
同じ側の膝と肘をつける連続動作。
イ フット・タッチ
同じ側の手の指先と脚のつま先をつける連続動作。
ウ レッグ・サークルA(股関節の外側へのぶん回し)
股関節を外側へ大きく回す。1,2,3のカウントでおこなうとリズムがとりやすい。
エ レッグ・サークルB(股関節の内側へのぶん回し)
股関節を内側へ大きく回す。1,2,3のカウントでおこなうとリズムがとりやすい。
オ バイブレーション・ステップ
低い構えで小刻みステップをおこなう。
カ スケーティング(低姿勢すり足)
低い構えですり足移動。上半身と下半身のジョイントに注意。
●ダイナミック・ストレッチを活用する
ウォーミングアップの含むべき要素のなかに、バランスやコーディネーションなどが含まれます。日々のウォーミングアップのなかにそれらの要素をすべて含めてしまうことで、トレーニングの時間の節約と継続が可能になります。それには、ダイナミック・ストレッチを用いることも有効な手段の一つです。