(6)スパイク
1)スパイク(アタック)技能
スパイクは、自分たちのコートにあるボールをあいてコートに返すときに使う技術であり、最低限ネットを越えてボールをあいてコートに返球する使命があり、相手がディグできないボールを打ち込むことができるようにすることが大切です。大きく分けると3種類あり、一つ目は相手コートに確実に返す“つなぐアタック”、二つ目はねらったところに打つ“崩すアタック”、三つ目は力強く変化を加えて打つ“決めるアタック”です。
技術的には助走、踏み切り、空中動作などがあります、また、トスの高さ長さ、速さをセッターと組み合わせることによって、性質の異なったスパイクを打つことができ、さらにそれを複数のプレーヤーと組み合わせることでチームとしてのコンビネーション攻撃が出来上がります。
スパイク技術は、アタック技能の大部分を占める技術であり、バレーボールの中でも最もパワフルで華やかなプレーといえます。
2)スパイクの基本
スパイクの基本は、大きく分けると三つの要素に分かれます。
@ 高さ…ネットの上から自分の最高到達点まで
A コース…ねらったところに打てること
B パワー…ブロック、レシーブを弾き飛ばす力
これを具体的にするために大切なことは、「構え」→「助走・動き」→「ジャンプ」→「スイング」→「インパクトの仕方」→「タイミング」のポイントをマスターすることです。
3)スパイカーの役割
スパイクをトスの種別(テンポ)で分ける。
@
速攻系アタッカー…速攻を主に行う。時間差攻撃のおとりになったりする。
クイック…セッターの近くで上がったトスを素早く打つ攻撃
(ファーストテンポ:ネットの上0〜2m)
A
セカンドテンポアタッカー…セカンドテンポのトスを主に打つ。
時間差…クイックをおとりにして、その前方や後方で相手ブロックを外して打つ攻撃
平行・ブロード…オープンよりもスピードのある低いトスを両サイドのアンテナ近くで打つ攻撃
(セカンドテンポ:ネットの上2〜4m)
B
遅攻系アタッカー…スローテンポのトスを主に打つ。
オープン…両サイドや候補のレシーブ後アタッカーに時間的余裕を持たせて打つ攻撃
(スローテンポ:ネットの上4〜∞m)
チームの得点源でスパイカーを分ける。
@ エーススパイカー…攻撃の中心的存在であり、チームの最高アタッカー
A 補助アタッカー…主にファーストテンポやセカンドテンポを打つ。要所要所で高い決定率が要求される。
B スーパーエース…バックアタックが打てることが条件。攻撃の要
アタッカーの技術で分ける。
@ パワーヒッター…高さとパワーが特徴のアタッカー
A テクニックヒッター…タッチアウトやフェイント、プッシュ、リバウンド、スポットショットなどのテクニックを用いて攻撃するタイプのアタッカー
4)スパイクを打つ前の導入方法
スパイクは空中でボディーバランスが重要です。また、トスの種類、攻撃する場所(レフト・センタ・ライト等)、ディグされたボールのリズム、トスを上げてくる場所により、それぞれのタイミング、テンポなどが違います。
いきなりネット際でジャンプしてスパイクを打てば、まずトスとのタイミングを取ることができず、そのためボールをきちんとヒット(ジャストミート)することができません。また、肩への負担が大きく傷害の原因となり得るのでスパイクを打つためのウォーミングアップとフォームを作るための準備を行うようにしましょう。
いろいろなことを考え、レセプションからのスパイクやディグ・チャンスボールからのスパイクなどゲームで使えるスパイクを打てるようにすることが大切です。
5)フォーム作りと床打ち
2人1組で約9m程度離れて、
@ キャッチボー等で肩を温めます。
A 手で頭上から相手にボールをスローイングする。
B 床にボールを投げるける動作を行う。両手でボールを持ち頭部に肘を曲げて構え、利き足を一歩前に出しながら肘を伸ばし腹筋を締めながら床にボールを強く投げつけます。ボールを後頭部に構えた時は、背筋で斜め後ろ側にジャンプのイメージで体を反らし、ボールを投げつけた時は、スパイクを打ったイメージでボールをリリースします(足は一歩前へ出しても、両足を揃えて投げつけても良い)。
C 実際にジャンプをして投げつけます。その際、肘を高く上げるように十分に体を上方向に持ち上げてより高く飛び上がり投げつけます。
D 利き腕で床に向かって打ちます。アタック時に軸となる反対の腕もしくは両手でトスをやや斜め前方にあげ、アタックヒットする側の肘を前方から斜め後方に引き上げます。軸となる反対の腕は、上げられたトスボールを指差すように伸ばし、落下してくるトスボールに対し、タイミングを合わせ、利き腕と反対の足を一歩目に踏み出しながら、伸ばした軸となる腕を脇腹に抱え込みながらシャープにスイングします。ボールヒットの際にタイミングよく前足に体重が乗るように注意します。
E 足長にボールを打ちつけます。ボールの上部を上手にヒットできるようになったらボールの軌跡をコントロールして打ちます。また、自分で上げるトスボールの高さをコントロールして変化をつけてみましょう。
F ジャンプして打ちつける。床打ちができるようになったら軽くジャンプをして打ってみます。ジャンプ動作を行う分だけトスボールを高めに上げることに注意し、タイミングを合わせて打ち付けます。
6) 助走
陸上の高跳びや走り幅跳びに見られるように、より高くまたは遠くにジャンプするためには助走が必要です。
ゲーム中の助走は1歩助走、2歩助走など歩数は、そのときのパス及びトスボールとの関係で変わります。いずれにしてもポイントはリズミカルな助走をすることです(クイックスパイクであれば1本目のパス、オープンスパイクならばトスの落下店を判断し、スピードとタイミングに注意して行う)。
ここでは、3歩助走について説明します。3歩助走の基本的なリズムは、右利きの人ならば、左足を一歩前に出して構え、右足から小さくスタートし、2歩目の左足は1歩目よりやや大きくとり、3歩目は、2歩目の左足の勢いを利用して大きく前方に幅跳びするようにして、さらに力強く踵から非見切り上方へ飛び上がります。その際のリズムは、タン・タン・タ・タンのリズムで右(1歩目)・左(2歩目)・右・左(3歩目)と助走します。
@ 利き手の方の足を小さくつま先から1歩出し、前方向に重心を移動します。
A 2歩目は1歩目よりもやや大きく出し、1歩目同様につま先から出し、前傾姿勢を作ります。
B 3歩目はボールの落下点に向かって大きく踏み出し、重心を低くし踵から沈み込むようにして踏み込み、後方から前方へ踏み込みのタイミングと同時に両腕を後ろに回し(バックスイング)、頭上に大きく、速く手の甲から振り上げジャンプします。
7)スイング
空中では前述のフォームの要領にて利き腕と反対でボールを迎えに行くような感覚で伸ばし軸を作り、利き腕は上げて脱力します。ミートの瞬間は、肘を伸ばしタイミングを合わせてスイングします(肩・肘の使い方に注意する)。この時、軸となる利き腕と反対の腕は身体全体を縮めるように脇にひきつけ、また、ミートの瞬間に腰部が上方に上がり、つま先が上を向くような身体の使い方をします。
8)空中姿勢
正面、真後ろから見て、背筋が床に対して垂直になっていることです。ボールヒット時には、真横から見てボールを利き腕の肩及び肘の前で捕らえていることです。空中でこの2点が出来ていないとよい状態でボールをヒットできないばかりか、身体(肩・腰・ひざ)に無理な負担がかかり、傷害の原因になることがあるので注意が必要です。
9)着地
片足ではなく必ず両足でつま先から柔らかく着地します。空中姿勢が良くないと上手に着地できません。
10)スパイク技術の習得系列
@ ネット際でのスパイク
フォーム作りが出来たら、実際にネット際で打ちます。
ネットの高さは、そのクラスのレベルに応じて調節します。スパイクの助走は基本的には3歩助走で行うが、まずは、ネット近くに位置し、一歩またはその場のスタンディングジャンプやオーバーネットなどの反則になりやすくなるので、自分のジャンプのタイミングや歩幅に合わせたポイントに上手に上げることが重要です。ネットが高すぎる場合でもアウトになってもよいので、まずは、ネットを越えるように努力しましょう。トスボールがネットに近づけると打ちにくくなるのでやや離したボールを上げると良いでしょう。また、同じ要領でワンバウンドしたトスを打つ方法も良い練習方法です。
A トスされたボールを打つ
タイミングを合わせて打つには、まずは手で上げられたボールを打ちます。床から約3m位の高さのトスボールにタイミングを合わせて助走し打ちます。その際、トスボールは床から垂直に上げます。
B クイックスパイク
打つタイミングが計れてきたら、あがったトスボールを直ぐ打つことにもトライしてみましょう。
スパイカーは助走をしてあらかじめジャンプをして、アタックの姿勢を整えます。セッターは、そのスイングの手元に素早くボールを出し、クイックスパイクのタイミングを習得してみましょう。セッターは、スパイカーがジャンプをしてからトスボールを上げても遅くはないので早く上げすぎないよう注意します。
トスは、スパイカーの手の平をめがけて投げ上げるようにします。
11)練習方法
はじめはレフトサイド(オンハンドサイド)からのスパイクを打ってみます。反対側のコートも使い2箇所からのセッターからの手上げトスボールを打ってみます。セッターは各列が一回りもしくはスパイクを打ってから交代しても良い。また、ボール拾いも考えが効率よく交代して行うことに注意します。
@ セッターからの手上げで打ちます。
A スパイカーがセッターに手上げでボールを投げ上げ、それをセッターがトスされたボールを打ちます。
なお、スパイカーはセッターがトスを上げ易いボールを投げます。
B スパイカーがセッターにオーバーハンドをしたボールからのトスを上げてもらい打ちます。
C セッターからスパイカーにボールを投げてもらい、それをスパイカーがセッターにオーバー・アンダーパスにて返球したトスされたボールを打ちます。
D パスをスパイカー以外のプレーヤーに任せ、パスとトスにタイミングを合わせて打ちます。この際に、セッターにトスをリクエストし、様々なトスボール(クイック等)を打ってみましょう。セッターとのコンビネーションも試みてください。
* 導入段階でのトスは、流れるトス(平行)よりやや垂直に落ちるトスが打ち易いでしょう。
12)各習得段階でのチェックポイント
@ フォーム作り
・ レフトサイド・ライトサイドのバランス
・ 身体の捻り
・ 上腕骨と肩甲骨のスムーズな動き(ゼロポジションでのヒット)
・ 肘の使い方(エレベーション・ディフェレッション)
・ 手首の使い方(スナップ)
・ フォロースイング
A 助走・踏切・ジャンプ
・ 助走前の位置取り(トスの出所の確認)
・ 助走前の構え(動き出しの状態)
・ 助走のスピード(前方向への力)
・ スタンディングジャンプ(0歩助走)→1歩→2歩→3歩(および3歩以上)助走と、そのときの状況に合わせて適切な助走がとれるようにします。
・ 3歩助走(基本的には、オフハンドサイドの足がリード足となる状態で構える)
流れ(右利きの場合):左(リード足を前にしややつま先重心で構える)→右(小さく踏み出しやや前傾姿勢を作る)→左(一歩目と同様に小さく踏み出しやや沈み込む)→右(ジャンプポイントに向けて速く、大きく、低く踵から踏み込む)・左(2歩目までの前方方向への力を上方方向へ変換させるため、やや斜め方向に踏み込み足底全体で床面を捉えジャンプする)
※ 注:バックスイング(助走時に3歩目の踏み切りで前方方向への力を上方方向へスムーズに変換させるために必要とされる重要な技術)
B 直上トススパイク
トスされたボールの真下に正確に踏み込み、真上にバランスよくジャンプし最高到達点でボールをヒットします。
C レフト(右利きの場合:オンハンドサイド)・オープンスパイク
サイドスパイクとは、打撃腕側からあがってくるトスボールをヒットするスパイクであり、右利きの場合はレフト側でのスパイクがこれにあたります。左利きの場合はライト側でのスパイクがオンハンドサイドのスパイクとなります(左下図)
D コースの打ち分け
サイド・オープンスパイクで様々なコースの打ち分けを習得します。まずはクロス奥(ディープ)とストレート(ライン)の打ち分けを行うが、ストレートを打つときには確実に身体をターンさせ、ライン方向に身体を向けた状態でラインを打つようにします。クロス奥(ディープ)とストレート(ライン)の打ち分けが確実にできるようであれば、クロス内側(インナー)へ打ち分けを行います。最初の段階では、身体の向いた方向にスパイクを打つようにさせます。これは肩や肘の障害防止のためにも重要です。
E ライト(右利きの場合:オフハンドサイド)・オープンスパイク
ライトは、レフトスパイクの逆で打撃腕側とは逆側からあがってくるトスボールをヒットするスパイクです。
オープンスパイクと同様にクロス奥(ディープ)とストレート(ライン)の打ち分けからクロス内側(インナー)の打ち分けに発展させます。
F 2段トススパイク
主にファーストレシーブボール(サーブレシーブ、スパイクレシーブ)がセッターへ正確に返球されなかった時にはトスされたボールをヒットするスパイクです。斜めもしくは後方からのトスを打つケースになるため、早い段階でボールのヒットポイントを見極めるスキルが必要とされます。空中では各関節のコーディネーション(力の伝達)により、身体の捻りを使いボールを巻き込むような大きなフォームでスパイクすることが必要とされます。多くの場合、肘を後方に引き上げるようにボールをヒットするスタイルとなる。この時は、しっかりとした3歩助走が必要です。
G バックスパイク
バックスパイクは、助走時のスピードと強い踏み込みにより前方方向へジャンプ(ブロード)することが必要とされます。2段トス同様に、体全身を使い大きなフォームでボールをヒットすることが重要です。
H クイックスパイク
クイックスパイクには、様々な攻撃種(A・B・ライト1レグ等)がある。コンビネーション攻撃を構築する上での起点となるため、どのようなタイミングで攻撃を仕掛けていくかが重要となります。助走パターンは3歩・2歩・1歩・スライド(レフト・ライト)と多くの方法があります。それぞれの攻撃においてセッターとのコンビネーションが合うか否かは助走スピードに依存しています。多くの場合、肘を拳上するスタイルでトスを空中で待つケースとなります。
I 移動スパイク
移動スパイクは、一人で行う一人時間差攻撃や2人以上で行う時間差攻撃等を仕掛ける時に主に行われる。相手ブロックを振る等のステップワーク(フェイク)をマスターする必要があります。
※ 注:フェイク(素早いステップの踏みかえによって、コースをさとられないようにし、相手ブロッカーを振るための方法である)
J 対ブロックスパイク
ブロックをつけた状態でのスパイク攻撃をすることにより、相手ブロッカーとの駆け引きをトレーニングすることができます。実際のゲームでは、ノーマーク(ブロックが踏んでいない)のケースは、レベルが高くなればほとんど考えられない。そのため最終的には、このような練習が必要となる。まずは、スパイク時に空中でボールの他にブロックを周辺視野に入れるトレーニング(ブロックにわざと当ててみるなど)を行う必要があります。そこからコースの打ち分けをトレーニングすると良いでしょう。
K コンビネーション
コンビネーションには様々なパターンがあります。重要なことは、相手ブロッカーよりも優位に攻撃するためにパターンが考えられていなければなりません。まずは、2人以上の選手による時間差攻撃から行い、フォワードの3選手が絡むパターンに行こうしていくと分かりやすく、現在のトップレベルでは、バックスパイクをコンビネーションに絡めることにより、相手ブロッカーよりも相対的に攻撃人数を優位にする(3人×4人)コンビネーションが展開されています。
L ディグ後スパイク
最終的には、レセプションやディグを行った後にスパイク攻撃に参加できることが望ましいです。すなわちディグを行う状態(姿勢)が次へのプレー(スパイク)に繋げられる状態であり、攻撃を組み立てる上でも、先のコンビネーションでも述べたように、常に攻撃参加人数を増やし、相手よりも優位に展開することが重要です。この技術習得には、ディグ時の姿勢が安定していることが要求されるため、静(ディグ)から動(スパイク)への動きをスムーズにするトレーニングが必要です。
13) スパイクについて
1)打球の種類
@ 最も基本的な助走の仕方。ネットに対して垂直には行っていく。
A ネットに対して斜めにストレートアプローチをする。レフトからクロスアタックを打つときに行う一般的な助走の仕方。
B ネットに対して弧を描くようにして助走する仕方。レフトやライト側オープンアタックを打つときなどに行う
C ネットに対して一度平行に右、または左に移動してからアングルに助走する。クイックに入るときなどに行う
D ネットに対して一度ループアプローチをし、そこから急に方向を変化させて行う助走の方法。特に、時間差攻撃のときに行う方法で、例えば前セミを打つと見せかけバックセミを打つといったときに使う。
2)アタッカーのタイプ
チームの得点源に着目
@ エースアタッカー・・・アタックで得点することが役割。チームで打つ回数が最も多い、攻撃の中心的存在であり、チームの最高のアタッカー。
A 補助アタッカー・・・主にファーストテンポやセカンドテンポを打つタイプのアタッカー。要所要所で高い決定率が要求される。
B スーパーエース・・・バックアタックが打てることが条件。攻撃の要。ポジションはレフト・ライト両方であることが多い
トスのテンポに着目
@ 速攻系アタッカー・・・速攻を主に行う。時間差攻撃のおとりになったりする。
A セカンボテンポアタッカー・・・セカンドテンポのトスを主に打つ。
B 遅攻系アタッカー・・・スローテンポのトスを主に打つ。
アタッカーの技術に着目
@ パワーヒッター・・・高さとパワーが特徴のアタッカー
A テクニックヒッター・・・タッチアウトやフェイント、プッシュ、リバウンド、スポットショットなどのテクニックを用いて攻撃するタイプのアタッカー