4、バレーボール競技に必要とされる資質について

(1)競技者

※ 一貫指導によって望まれる選手像

ハイレベルのスポーツ競技において優れた成果をあげるためには環境・指導者・経験やキャリアの重要性はもちろんであるが、試合に直接参加するのは、最終的に競技者であり、競技者自身の資質や能力を抜きにして優れた競技者の育成は考えられません。

スポーツには多くの種類があり、個々のスポーツに要求される適性にも多様な要素が考えられます。私たちが素晴しい競技者を発掘育成しようする場合、先ず競技特性から見た適性を判断する事からスタートしなければなりません。バレーボールの場合、次の3点から適性を見る必要があります。

@ 体格と体型

バレーボールの場合、世界のトップクラスの競技者になるためには身長が男子 2m以上、女子で 1.8m以上あることが必要になります。もちろんこの基準よりやや低い身長の場合でもジャンプ力が優れた者については、トッププレイヤーとして通用する可能性が全くない訳ではないが身長が重要な条件であることは否めない事実です。人種的に平均身長の低い日本人はこの身長の部分ですでにハンデを負っています。

ジュニア選手の発掘においてもJOC杯全国都道府県対抗中学バレーボール大会における選手選考の基準は身長で男子 1.85m以上、女子 1.75m以上を対象とし、助走してジャンプした最高到達点が男子 3.20m以上、女子で 2.85m以上の者を探しています。身長の伸びの予測には個人差があるので将来的には小学生や中学 1年生からの身長の変化をチェックしたり、骨年齢の測定ツールを利用した取り組みを検討しています。この大会の選考会として神奈川県では男女合せて 500人を超える中学生から選手を選考し、また、その予備軍として中学 1・2年生でも発掘育成の合宿を行っています。中学・高校の育成強化についてはしっかりした連携が出来上がっているが、小学生と中学生との連携が出来上がっていない状況でこの部分を今後一番の重要課題として取り組むべきです。

一方、バレーボールが高さのみでなく、レシーブやブロック、ポジション移動など上下、左右への動きが激しいスポーツであるだけに全身のバランス・姿勢・体型等についても併せて考慮するべきです。

体型については、バレーボールは軽量のボールを用いての競技であり、相手との身体接触がほとんどない競技である事を考慮すると、やや細身のしなやかな身体の持ち主の方が、トレーニングによってジャンプ力等の必要な部分に筋力をつける努力をすれば大成するケースが多いと思われます。

A 体力的要素

バレーボールは時々刻々と変化する状況に応じたプレーや複雑なボールの変化に対応できるスピードとパワーのスポーツであるだけに体力的要素として敏捷性・瞬発力と調整力(器用さ)が大切なチェックポイントです。

敏捷性について考えてみるとバレーボールの場合、動きの速さは経験や指導によって学習される読みや予測等の状況判断の正しさと共にある事態に対する反応の速さや動きのスピードを生む、筋の瞬発力の大小に左右されるといえます。この後者の筋の瞬発力(無酸素的筋パワー)は今日のスポーツ科学の研究成果から明らかなように、遺伝的条件によって左右されます。このことは、同じ条件でトレーニングをした場合でも垂直とびで 90p以上跳べるようになる選手もいれば、80pまでしか伸びない選手もいるという事実を示唆するものです。

遺伝的要因によって筋繊維の組成がある程度決定される事を考えれば、競技者の選抜には遺伝的要因を考慮する事の重要性を示唆しています。

また、バレーボールは空中でのバランスや動作調節の巧拙、ボールや相手の動きの変化に対応する能力の巧拙が競技者の優劣を決めるひとつのポイントです。「大男総身に知恵が回りかね」では困るのです。

器用さにも遺伝的要因が影響すると思われる要素があるが基本的には小・中学校時代の様々な運動経験、特に器械運動を中心としたトレーニングの積み重ねが必要で選抜時に調整力の優劣の評価も適性判定の指標の一つになります。

B 精神的要素

競技者の適性判定にあたって一番難しい問題点であり、かつ比較的見逃されているのが精神的適性の評価です。豊かな社会的、経済的背景の中で少子家庭に育った若者は苦しさから逃れ、安易かつ平凡な生き方を求めようとする傾向にあります。トップアスリートになる過程で当面する厳しさ・忍耐力・努力の積み重ねの重要性を理解させ、自ら困難な課題に挑戦させることは容易ではありません。中学生時代に将来を大いに期待されて全日本チームの候補に選ばれた有望選手が合宿参加を拒否したり、遠征を辞退する例は数多く見られます。

人格的に未完成な中学生・高校生に完璧な精神的要素を求めるのは無理としても成長過程で培われた精神的な資質を分析評価し、将来の可能性を検討する事も適正判定の重要な要素です。

これらの要素を評価するのは現実的には難しい問題であるが、練習や試合のおける様々な条件の中で本人の反応や態度、日常生活やミーティングでの行動様式、学校での成績水準などを参考に複数の指導者によって主観的に評価したり、心理テスト等も用いる事で解決できます。例えば負けず嫌いか否かを長距離走時の頑張り方で評価したりミーティングの時のノートの取り方、練習日誌のまとめ方や記述から集中力や判断力を評価したり練習時のリーダーシップや協調性をうかがう事ができます。

もちろん、中高校生等の精神的に未完成な生徒たちの評価には指導に伴う態度や行動の成長変化についても観察しつつ時間をかけて判定をする必要性があります。また、競技者を取り巻く社会的・家庭的環境(特に両親のスポーツに対する協力姿勢)についても配慮する事が望まれます。

※ バレーボール界が育成すべき選手像

代表選手クラスになると社会的な注目度も大きく次世代を担うバレーボール競技者のつぼみたちに与える影響も大きいものです。このようなことを考えると一貫指導システムで育成していくバレーボール競技者は「競技力が高い」ことに加えてスポーツマンである事が強く望まれます。

C 高い競技力

現在の世界のバレーボールは専門家路線をたどっています。リベロ制度の導入によりその色合いがいっそう濃くなりました。日本国内でも同様のことが当てはまり、全ての年齢層でスペシャリスト養成が行われているようにも思われます。このような競技者の中にはレセプションやディグができないという選手も見受けられます。特にミドルブロッカーの選手にこのような傾向が強いです。しかしながら、世界に目を向けるとこの程度の身長の選手はレセプションもディグもこなすという選手が多く、今後の日本が目指すべき選手の育成は若年層からスペシャリストを育成することではなく、ジェネラリストを育成する事です。全ての選手が二段トスを全力で打ち切れる能力を有する事が目標であり、そして、シニアレベルに近づくにつれ、その競技者に適した専門的な能力を開発・発揮させていかなくてはなりません。すなわちチームとしての役割上、高いレベルでのスペシャリストとしての能力が必要とされるのです。これらの事を実現することにより日本独自の器用さを生かした多様性のあるバレースタイルを確立できるはずです。>

D スポーツマンシップ

スポーツの本質は「遊び」であるといえます。ここでいう遊びとは仕事のように義務的な意味をもった行為ではなく、自由意志による行為であり、「真剣な遊び」といえます。競技スポーツでは勝ち負けがともない、勝ち負けがあれば勝ちたいと思うのが普通です。

しかし、「勝たないといけない」、「勝たないと意味がない」という勝利至上主義に陥ってしまってはなりません。子供たちの人間形成のためにといいながら指導者の自分が勝ちたいというエゴを実現させるために、適切ではない指導を行なっている指導者もいるのではないだろうか?勝負事にはできれば勝ちたいがバレーボールで「真剣に遊ぶ」ことを忘れてはならないのではないでしょうか。結果も重要であるが、その過程で「どのように楽しみ努力したか」を問われるべきです。しかし、遊びの無秩序な部分が協調され、「いい加減な遊び」にならないよう注意しなくてはなりません。実際に試合では両者が真剣に勝ちを狙って対戦するからこそ面白く、このような「真剣な遊び」を成立させる人間性がスポーツマンシップであると考えられます。

スポーツマンシップはスポーツ現場にのみ当てはまる事ではなく、一般に我々が日本社会の中で考える道徳観となんら違いはありません。若者のモラル低下が叫ばれている今、バレーボール指導現場でのスポーツマンシップ遵守を徹底させることにより日本社会の中におけるバレーボールに対する評価が上がるのではないでしょうか。また、スポーツマンシップの指導により自分で自分の問題点を発見し克服しようとする「自己教育力」を持った競技者を育成できるのではないでしょうか。「何が自分に足りなくて何をしなくてはならないかを自分自身で気付き、できるように努力する。」こういった競技者が集まったチームは本当の意味で素晴しいチームであるといえるでしょうしナショナルチームはそうあるべきです。

E 考える力を鍛える

農耕民族といわれる日本人が狩猟民族といわれる国の人々に勝つことを考えた時に脳を最大限に活用させながらトレーニングする事は大切です。それは、肉体的条件に勝るものと対等に勝負するために残された唯一の手段です。体格・体力に劣るものがバレーボールというボールゲームで勝つためには、考える力を養いながら練習を繰り返し行うことが大切です。毎日の練習で大切なことは、練習に集中すること、創意工夫をすることです。正しいフォームを正しく理解するまで意識して練習し、そして条件反射になるまで何回も何回も繰り返し練習する事が必要です。

体格(特に身長)で劣る日本人はレセプション・ディグを主体に高度なテクニックを駆使して勝つことを心がけなくてはなりません。守りとスキルは努力によって、つまり大脳を活発に働かせる事によって作り上げる事ができるのです。

「練習を一生懸命に行う。」「基本的習慣を身につける。」「自分の欠点を知る。」「監督の指導を理解する。」「精神的に強くなり克服感・成就感を得るために苦しい事に耐える力を身につける。」

これらは大脳をトレーニングする事によって得られるものです。

F 理論と実践

バレーボールの理論を学習し身につけることは重要であるが、理論の是非を決めるのは実践であることを忘れてはなりません。

現在の指導者を見るとバレーボールは高度になり進歩しているが実践となるとお粗末のような気がします。世界に目を向けると外国人選手のほうが高いモチベーションを持ち厳しい練習の実践に励んでいるように思えます。体格的に恵まれない日本人選手がもっとハードな練習をしなくてはならないのに・・・これは指導者の実践における意識の違いによるものではないでしょうか。努力と言う字は誰でも書けるし意味もわかります。しかし、一日の練習時間について 2時間練習すれば努力したという人がいれば、5時間の練習でも足りないという人もいます。言葉の意味の深さは実践が決定するのです。