1、はじめに
日本は東京オリンピック(1964)とモントリオールオリンピック(1976)において女子が金メダルを、ミュンヘンオリンピック(1972)においては男子が金メダルを獲得した輝かしい歴史をもっています。わが国を代表する全日本チームのオリンピックや各種国際大会での活躍はバレーボール競技の普及に大きな役割を果たし、バレーボール人口の増加につながってきました。
しかし、世界におけるバレーボールの競技は技術力の向上、指導技術・練習方法の改善やバレーボール競技そのもののメジャー化(競技参加国の増加と世界各国でのプロ化等)にともない、近年その競技レベルは急激に向上し、従来の「選手を選抜して強化する」といった方法だけでは対応できなくなってきました。
実際に男子は1992年のバルセロナオリンピックから出場の機会になかなか恵まれず完全に低迷し続け、女子も2000年のシドニーオリンピックの出場を逃すという窮地に立たされていましたが、何とか2004年のアテネオリンピックへ全日本女子チームが出場して国内の女子バレーボール競技を救ってくれたように思われます。
また、昨年(2008)の北京オリンピックでは奇跡的に男女のバレーボール競技(男子は16年ぶりの出場)とともにビーチバレーの男女チームまでもが出場できたので、今後のバレーボール界の明るい材料になってくれるものと大いに期待しています。
近年の日本のバレーボール国際競技力は長期低落傾向にあり、また、国内的にも競技人口の減少(チーム数の減少)が懸念されている状況です。全日本チームの活躍が競技人口獲得の大きな武器である事はいうまでもなく、現在の国際競技力低迷が青少年のバレーボール競技人口減少に影響を与えていることも十分考えられます。さらにはこの競技人口の減少が国際競技力を低下させる一要因であるとも考えられ(普及と強化は両輪)、現在の日本バレーボール界は悪い循環に陥っているといってもいいでしょう。
過去には神奈川県からも多くのオリンピック選手を輩出しており、中学や高校、企業においても全国大会で上位成績の獲得が大変多く「バレーボールのメッカ」と言われた神奈川県でしたが、日本鋼管、富士フイルム、東芝など企業スポーツの撤退による実業団の低迷や中学校、高校といった教育現場でも部活動だけに依存してきたあまり、少子化が叫ばれる現在では学校単位のチームも組めないほど部員が減少し、(子供たちの興味や関心の多様化も一因であるが)新規教員採用数の減少もあって部活動の指導に事欠く状況になってしまいました。
まだ女子においては、小学校バレー(スポーツ少年団)が地域によって差があるものの比較的普及していて、技・体の部分で可能性の秘めた選手も多く、中学校にあがっての部活動は盛んで、まだ競技人口も多いといえます。
しかし、男子においては少年バレーのチームも大変少なく素質のある人材が小学校の段階で他競技(サッカー・野球・バスケット等)に多く流失しているのが現状です。先程述べたように中学校の部活動も男子チームが非常に減少しており、バレーボールをやりたい生徒がいても部がなく活動場所に困っているような状況で指導者にも恵まれていない環境です。そこで小学生や中学生の学校部活動の枠を越えた地域型スポーツクラブなども含めて小学校・中学校の競技環境の確保や指導者育成に努力して行きたいものです。
また、これまでの県内のバレーボール指導法を分析してみるとそれぞれのライフステージにおける大会の勝利のみを目的とした選手強化を行ってきた傾向が強く、若年層のスポーツ指導の過熱傾向(行き過ぎた指導など)による選手のバーンアウトやオーバーユース、誤ったトレーニング方法によるスポーツ障害などを生み出す結果になっています。ややもすると伸びる選手の芽を摘んでいた恐れもあったのではないかと思われ、このような問題を未然に防ぎ、子どもから大人になるまで競技寿命を全うできるよう健全なスポーツ活動の普及を図っていく必要があります。「選抜・強化」から健全な「有望な競技者の発掘・育成・強化」への発想の転換が必要であり、そのために子供から成人に至る「一貫指導」が必要となります。
一貫指導のためのシステムを構築するには以下の2点が重要となります。
@ 過去の反省を含め、現状を正確に把握し既存システムを最適化する。
A 目標と現状とのギャップを正確に評価し、目標達成のための方策を明確化する。
このような指針のもとに今後の神奈川県バレーボール界に強く望まれることは優秀な指導者を育成するとともに、小・中・高・大・実業団へと一貫した理念に基づいた指導によってより優れた選手を育成することです。
そこで神奈川県バレーボール協会はこれまでの指導法を見直すとともに新しい競技者育成システムである「一貫指導システム」を構築しています。
この「一貫指導システム」は完成期において競技者個人が持っている潜在能力を十分に発揮できるよう長期的視点から育てること。それぞれのライフステージに応じてその能力を適切に伸ばすとともに与えられた場面において持てる能力を最大限に発揮する事ができる競技者を育てていく計画で競技者個人の成長を第一に考えたものです。
システム構築のための問題解決方法